2016年3月29日火曜日

PEPS 3年目への期待

PEPS大気水圏科学セクション編集委員の杉田 文です。

今年も桜の咲く季節となり、2014年4月に創刊されたPEPSはこの春から3年目に入ります。 私は千葉商科大学という社会系の小さな大学に勤めておりますが、専門は地下水学で、2013年に、日本地下水学会と日本水文科学会からの派遣という形で編集委員会に加えさせていただきました。以来、実は今日まで、あまり編集委員らしい仕事をしていないのですが、時間だけは2年も経ちましたので、感想を少し述べさせていただきます。

最初にPEPSのお話を伺った時は、オープンアクセスという出版方式に興味津津、しかも、基礎となる既存雑誌が無いところから学術誌を創刊するとのことで、どうなることかと、楽しみと少し不安が入り混じった気持ちで最初の編集委員会に出かけたことを覚えています。その後、PEPSは、編集委員長の先生方のReviewによると、昨年末までに75編の論文等の掲載、14000件を超すアクセスと7000編を超すダウンロードがあったといいますから、着々と一流の国際誌へと成長、発展をしていると言えます。

一方、私の専門分野では、JpGU大会での発表は数多くありますが、PEPSへの投稿は多くはなく、開店休業のような状態です。原因の一つは周知不足、そのほか、質の高い国際誌ということで、様子を見ている研究者が多いことが挙げられます。前者の周知不足については、関連学会にPEPSが優れた学術誌に成長しつつある現状を広く伝える努力をしようと考えています。

後者についてですが、私どもの分野では、特に日本を研究対象とした論文を欧米の学術誌に投稿すると、ローカルな研究として過小評価される傾向があり、国際誌というと投稿を躊躇することがあるようです。実際に、フィールド研究に基づくプロセス解明といった内容の投稿原稿が、ある国際誌でローカルな研究であると、門前払いにあってしまったという話も聞きました。これは欧米の学術誌に悪意があるわけではなく、単純に聞きなれない地名や現象からそのような判断になるのではないかと思います。アジアの他国の研究者も同様の経験をしているかもしれません。PEPSは日本発、アジア発の国際誌です。今後、日本やアジアの地球惑星科学コミュニティー発展のためにも、PEPSが日本やアジアをフィールドとした質の高い研究成果を報告する場としての役割も担っていくことを期待したいと思います。

JpGU大会でそのような素晴らしい発表をされた研究者、または発表した研究者を御存知の先生方におかれましたては、是非、PEPSへの投稿をご検討いただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

PEPS大気水圏科学セクション編集委員 / 千葉商科大学 杉田 文




2016年3月3日木曜日

良い雑誌に投稿するということ

PEPS大気水圏科学セクション編集委員の大手 信人です。

僕が初めてちゃんとした雑誌に論文を投稿したのは1994年でした。投稿先はAmerican Geophysical Union のWater Resources Researchで、当時は印刷した原稿を何部かクリップで留めて、郵便でワシントンDCまで送っていました。一部始終をいまでもはっきり覚えています。担当してくれたeditorはUniversity of VirginiaのGeorge Hornbergerさんでした。当時は英文校閲のビジネスもなかったので、アメリカ人の友人に見てもらってはいましたが、つたない英文の原稿を、辛抱強く読んでくれて査読に回してくれました。3ヶ月くらい後だったでしょうか、査読が終わってdecisionが送られてきましたが、結果はreject。ですが、Hornbergerさんのコメントは、査読者のコメントをよく読んで、それに対応して、もう一度投稿しなさいというものでした。それだけではありません。手紙(文字通り、手紙です。紙に印刷されたLetter。)には、どのようにリバイズすればいいのか、どうしたらもっと読者に情報がうまく伝わるのか、それを事細かに指摘し、僕に教えてくれていました。それからまる一年の間に、リバイズ、再投稿、major revisionの指示、リバイズ、再々投稿、minor revisionの指示、再々再投稿を経て、ようやくacceptをもらいました。その間、Hornbergerさんは、僕に何度も的確なリバイズの指示をだしてくれましたが、それよりありがたかったのは、論文を完成させるように、ずっと僕を励まし続けてくれたことでした。いってはなんですが、そのころの自分のボスよりもずっと心強い存在でした。

当時、僕は駆け出しですから、Hornbergerさんがどれほどの人だったかをわからずに、親切なeditorにあたってよかったな、などと思っていましたが、だいぶたってから、彼がHolton Awardをはじめ、数々の賞を受賞している水文学のbig nameだったとわかりました。改めて、ああ、ありがたかった、さすが、Georgeと思いました。

Beginner’s luckだったかもしれません。しかし、定評のある一番良い雑誌のeditorial boardには、ちゃんとした人がいて、その人が回すreviewerもちゃんとした人で、投稿者の気持ちも読者の気持ちもちゃんと考えているのだということを、国際誌への最初の投稿で勉強させてもらいました。良い雑誌に投稿するということは、そのようなことであると、これから論文を書いていこうという若い人達にわかって欲しいし、自分がHornbergerさんのようなeditorでありたいと思います。


PEPS大気水圏科学セクション編集委員 / 京都大学 大学院 情報学研究科 大手 信人