2016年11月24日木曜日

インパクトファクターを巡るPEPSの今日この頃

PEPS地球生命科学セクション編集長の川幡 穂高です。

インパクトファクター(Impact Factor, IF)が皆様の研究成果の評価に使われるようになり,戸惑いを持つ方も多くおられるかと思います.この引用索引という指標を科学界に広めたのはEugene Garfield博士で,1955年にこれに関する最初の論文が発表されました.この指標は,もともと図書館で雑誌を購入する際の判断基準の一つとして考案されました.皆様もご存知のように,IFは,ある雑誌に掲載された論文がどの位引用されたかというデータを通じて,雑誌が1論文あたり平均何回引用されているかを算出するものなので,「雑誌を評価する指標」です.

しかしながら,最近適切でない使い方がしばしば見受けられるようになってきました.大学設置基準が改正され,大学の自己評価が義務づけられました.高いIFを持つ雑誌に掲載された論文を集めて,大学の主な成果とする風潮や,雑誌のIFを足した合計などを各々の教員の評価に使用したりするのも,これに含まれます.特に,後者の使い方については,もともとIFの考案者であるEugene Garfield博士が「このような形で利用すべきでない」と注意喚起されているそうです.

PEPSでは,地球惑星科学の海外の一流誌に匹敵する位のIFを獲得すべく努力をしています.その理由は,IFは「ジャーナルの評価」としては,それなりの意味をもっているからです.PEPSはオープン・アクセスのジャーナルとして,投稿料をいただきながら,世の中にある商業誌との競争をしていかなければならないという環境の下で出版されています.そのため,一流誌に匹敵する位のIFは必須となります.ただし,むやみに高いIFを狙わねばならないという商業的意図はないので,AGU(アメリカ地球物理連合)のような良心的な学術誌を目指していきたいと考えています.

さて,AGUにおいても,以前はジャーナルを自社出版してきましたが,現在ではWiley社より出版されています.出版情報の流通の効率化が目的であったと聞いており,学会自身が学術雑誌を直接経営していくことが昔より難しくなり,出版事業がプロ化してきたことを反映しているのかもしれません.現在PEPSは,Emerging Sources Citation Indexという,地域的に重要なジャーナルや新しい注目分野のジャーナル3600誌をカバーする,IFが付与されないデータベースに採録され,さらに,IFの付くScience Citation Index Expanded(28,000誌)への登録申請書を提出して,審査を待っている段階です.現在,PEPSの投稿者の多くは,日本地球惑星科学連合大会などに参加された方やその周辺の方々ですが,Science Citation Index Expandedに登録され,IFが付与されれば,世界中の研究者がPEPSを知ることとなり,海外からの投稿,海外の方によるPEPS論文の引用も増加すると期待されます.そのような「広告」という観点からもIFをもつことは重要と考えられます.なお,IFを算出する部門は,今年Thomson Reuter社よりClarivate Analytics社に売却されたので,IFは今後Clarivate Analytics社より発表されます.


PEPS地球生命科学セクション編集長 / 東京大学 大気海洋研究所 川幡 穂高



2016年8月22日月曜日

進化した世界で,新たに生じた面倒さ

~論文の図に関して~

PEPS総編集長の井龍です.

数年前,現在の所属先に移動するに際して,部屋のマップケースの中身を整理していたところ,デカドライとスクリーントーンが大量に出てきました.博士課程在学時に買い求めたものを約四半世紀も後生大事にしまっていました.

今の院生や学生には異次元の話と思われることは必至ですが,二十数年前ごろまでは,図はハンドメイドで,レタリングにはデカドライ(文字シール)を,模様にはスクリーントーン(模様が印刷されたシールのようなもの)を使っていました.デカドライもスクリーントーンも一通り揃えると,それなりの値段となり,貧乏院生には大きな負担でした.校費や科研費で購入している教員を羨ましいというより,恨めしく思っていました.しかし,パソコンで描画用ソフトウェアーが使えるようになると,このような状況は終わりました.それは,私の周辺では,1990年頃だったと記憶しています.

さて,PEPSのウリの一つにRapid publicationがあります.そのため,事務局は,個々の原稿の査読から出版までの状況を,常時,ウォッチしており,1週間に1度(月曜日の夕方に),総編集長および6名のサイエンス・セクション編集長にレポートが配信されます.しかし,このような査読の迅速化に対する取り組みも,SpringerOpenの制作部門で原稿が滞ることがあり,善処を求めて来たところです.かなり改善されては来たのですが,問題がなくなった訳ではありません.

制作部門での遅れが生じる原因をサーチしてきたのですが,その一つとして,原稿の図に問題がある場合,制作が遅れ気味であることが分かってきました.そこで,Rapid publicationのために,以下をお願いしたいと思います.以下は,他のジャーナルに投稿される場合にも,当てはまると思います.

1. 図の解像度は300dpi
現在,ジャーナルの冊子体の図や写真の解像度は,300dpiに設定されています.ですから,300dpiより解像度が低いと不鮮明になってしまいます.一方,300dpi以上の解像度にしても意味はありません.300dpiで作成しておけば問題ありません.

2. EPS形式で保存したファイルをアップロード
イラストレーター等の広く使われている描画用ソフトウェアーで作図した場合,それらはベクトル画像となっています.制作部門に送られた図が,そのまま使えれば問題ないのですが,制作部門で図を加工する必要が生じた場合や著者校正で修正を求める場合,予めベクトル画像が送付されていれば,制作部門での作業が迅速に進みます.よって,投稿時には,図はEPS(Encapsulated PostScript)形式で保存したファイルをアップロードすることを勧めます.

3. フォントはアウトライン化
文字情報であるフォント・ファイルの搭載状況は,OSや同じOSであっても,バージョン等により異なります.そのため,自分が作成した図のファイルを別環境下で開いた場合,同じフォントがなければ,文字化けや別書体による置換が起きてしまいます.文字を図形化してしまい,どんな環境でもフォントが作成者の意図の通りに見えるようにするというのが,アウトライン化です.文字化けは,ギリシャ文字で頻発しますので,特に注意が必要です.

その他,数値とSIユニットの間にはスペースを入れる,緯度・経度を表記する際には,北緯と東経を示すNとEを記入する(少なくとも1箇所)等にもご注意ください.

少し詳しく書きましたが,それぞれの注意事項について,何故,そのような注意が必要なのかを理解していただければと思います.それにしても,デカドライとスクリーントーンを使って図を描いていた頃,こんな便利な時代がくるとは想像すらしていませんでした.この先,どのような進化が訪れるのかが楽しみです.


ちなみに,デカドライはすでに生産停止となり,未使用品には平均して3000円以上の値段がついているそうです.しまった!
PEPS総編集長 / 東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 井龍康文


2016年5月18日水曜日

日本の「研究力」はどうなっているのか

PEPS宇宙惑星科学セクション編集委員の山本衛です。

日本の「研究力」の現状はどうなのか?これについて国立大学協会政策研究所から所長自主研究「運営費交付金削減による国立大学への影響・評価に関する研究~国際学術論文データベースによる論文数分析を中心として~」(2015年5月)という報告(以下では「報告書」と呼びます)が公表されていますので、ご紹介します。調査をまとめたのは鈴鹿医療科学大学学長の豊田長康先生です。トムソン・ロイターInCitesというWeb of Scienceをさらにまとめたデータベースをもとに、各国の論文数の比較分析を行っています。また各国の公的研究資金や日本の国立大学への運営費交付金や科研費の情報を加味し、研究力向上への提言をまとめています。豊田先生はご自分のブログを持ち、そこで2010年ごろから根強く議論を続け、この報告書に結実したようです。

報告書に示されている日本の科学技術の現状は衝撃的です。ぜひ多くの方が目を通されることをお勧めします。報告書からの引用ですが、「(各国との比較において)2002年頃から、唯一日本だけ論文数が停滞~減少し、2012年時点で5位となっている。人口あたり論文数は停滞し、先進国で最も少ない。2013年人口あたり論文数は世界35位、台湾は日本の1.9倍、韓国は日本の1.7倍。2013年生産年齢人口あたり論文数では日本は31位。日本の研究力は東欧諸国グループに属する。」などという事実の列挙が続きます。

背景にある原因として、公的研究資金について比較を行い、「高等教育機関への人口あたり公的研究資金と論文数は正の相関をする。日本は先進国で最も低い。」と指摘し、それが大学の研究従事者数と博士課程大学院生数を強く制限している姿を示しています。また日本の公的研究資金が公的(政府)研究機関に重点配分される傾向が強いこと、そのような研究費の投入を行う国は論文数が少ない傾向にあると指摘しています。「G7主要国に対する論文数の国際競争力低下は、1998年頃から始まった高等教育機関への公的研究資金の相対的減少から約4年のタイムラグを経て、2002年頃から顕現化した。」とまとめ、運営費交付金の削減による基盤的資金の減少が国立大学の論文数の減少の主因であるとしています。

報告書の最後では、日本の研究力の回復に向けた提言を行っています。それは大学の基盤的研究資金、研究者の頭数×研究時間、(科研費に代表される)幅広く配分される研究資金の確保であるとし、「日本のピーク時に回復するためには25%、韓国に追いつくためには50%(1.5倍)、G7諸国や台湾に追いつくためには100%(2倍)増やすことが必要である。」と結論しています。

報告書では、日本の研究力がG7諸国の最下位で、台湾や韓国よりも劣っているとしています。しかし私自身の身の回りにおいては、そこまでの危機感はないようにも思えます。これは人口の差に原因がありそうです。人口は日本が1億2700万人、韓国が5000万人、台湾が2300万人です。たぶん私の研究分野では台湾や韓国の研究者の数が少ない。一方で彼らが注力する分野では、報告書が指摘するような研究水準の拮抗あるいは抜き去りが生じているのでしょう。例えば、半導体産業で韓国・台湾企業の業績が高く、日本企業の業績が低迷しているというニュースを良く目にしますが、その背景には、報告書が指摘するような事情があるのではないでしょうか。

日本・アメリカ・ドイツ・韓国・台湾の一人当たり購買力平価GDPの年次推移を図示します(「世界経済のネタ帳」というwebサイトのツールを利用しました)。これは国民の豊かさを比較的よく表すパラメータだそうです。日本はアメリカ・ドイツのグループに属していましたが成長率が下がり、2007年に台湾に抜かれ、現在は韓国とほぼ同じです。屈曲点は1997-1998年にあります。このころ、橋本龍太郎総理大臣(1996-98年)のもとで消費税が5%に増税されました(1997年4月)。また財政再建の声が高まって政府支出の伸び率が大きく抑えられ、現在まで引き続いています(橋本元首相が晩年にこれらの失政を悔いていた、という報道を目にしたことがあります)。報告書の記述とも符合しています。


日本の研究力に関する報告書をご紹介してきました。国立大学協会は、今年4月19日に安倍晋三総理大臣に向けて「科学技術予算の抜本的拡充に関する要請」を行いました。その公表文書を見ると、報告書の分析結果が反映されているようです。要請が受け入れられ、今後速やかに日本の研究環境が改善していくことを願わずにはおられません。

PEPS宇宙惑星科学セクション編集委員 / 京都大学 生存圏研究所 山本 衛

2016年4月13日水曜日

わかりやすい原稿を書こう

PEPS大気水圏科学セクション編集委員の池原 研です.

日本第四紀学会から編集委員として出ています.日本第四紀学会の学会誌である「第四紀研究」の編集幹事を4期(8年)程務めた経験があります.専門は海域での堆積作用ですが,最近は日本周辺海域で地震や津波,洪水などで形成された堆積物の認定とそれらから過去の地質災害の発生履歴を検討するような仕事を主にしています.このため,年に何回かは調査航海に出るため,PEPSの編集事務局にはいろいろとご迷惑をおかけしています.海洋関係の研究をしているので,大気水圏科学のセクションに属していますが,PEPSでは固体地球科学,横断的分野,地球人間圏科学,地球生命科学のセクションに投稿された原稿を担当しました,あるいはしていますが,自分の所属するセクションの原稿は担当したことがありません.

さて,当たり前のことをタイトルにしました.では「わかりやすい原稿」とはどんなものでしょうか?私は「起承転結」がしっかりしたもので,不足も余分もないものだと思っています.一つは論文の構成です.「Introduction」での問題意識の提示とそれにかかる現状のまとめ,「Materials」や「Study area」での対象地域や試料のしっかりとした記述,「Methods」での研究・分析方法の記述,「Results」での結果の提示,「Discussions」での結果をもとにした論理的な解釈と問題意識を踏まえた議論,「Conclusions」での考察から導き出される結論の明確な記述.これらの要点は多くの論文執筆法の教科書にも書かれていることであり,日本語原稿でも英語原稿でも基本的に同じです.しかし,これをきっちり守っていくことはなかなか難しいことです.私は論文を書く時にシャープさを常に意識します.自分が示した問題意識に対して,過不足ない,どの結果から,どのような議論を経て,どのような結論を示すか,を頭の中にまず作るわけです.さらにPEPSのような国際誌だったら,問題意識はもちろんローカルなものでなく,地域的あるいは全球的なものであるべきでしょう.数多い論文や投稿原稿の中で時折見かけるのが,「Introduction」で提起した問題に対応した結論が載せられていないものや「Results」の章に「解釈」をちりばめているものです.前者はその論文で著者らが主張したいことを不明瞭にします.後者は,どこまでが自分が出した結果で,どこからが解釈なのかが不明瞭になって論文がシャープでなくなります.また,議論はあちこちに飛ばないように順序よくしてほしいです.論文の中に流れがあると読みやすいですね.さらに,やったことを全部書くのでなく,その中から議論に必要なデータを選択することも大事です.特に若い人の原稿では議論に不要な結果など余分な情報が入っている場合が多いです.不要なデータや記述は論文の論点を不明確にします.一方で,もちろん必要なデータはすべて載せられていることは必須です.どうしてそれがそう解釈されるのか,後続の研究者がその結果を使えるようにしっかりとした根拠を示しましょう.もう一つ,思い込みの議論はやめましょう.自分では常識であっても,それが他の人の常識であるとは限りません.図表もわかりやすいものであってほしいですね.不要な空白は削って,数字や文字も大きめにしてほしいです.

以上はまた,私が査読者や編集委員として投稿原稿をみる時の基本でもあります.もっとも,えらそうにこう書いていても,自分の原稿で上記のようなことを査読者から指摘され,修正を求められたこともありました.ここでは,自戒の意味も込めて,そしてこれから論文を書いていってほしい若手研究者に向けて,当たり前のことを書かせてもらいました.常にシャープさを意識して,「わかりやすい原稿」を作っていきたいものです.

以下は,手元にある「日本語の」論文の書き方の本の一例です.
倉茂好匡(2009)環境科学を学ぶ学生のための科学的和文作文法入門.滋賀県立大学環境ブックレット,5,95p.,サンライズ出版.
日本語論文の書き方の入門書で,「日本語の書き方」という最も基礎から入っていますが,英語論文に通ずるところも多数あります.若い人には是非読んでほしい本です.

見延庄士郎(2008)理系のためのレポート・論文完全ナビ.講談社.
実験レポート・卒論の書き方の本ですが,論文の構成や図表の書き方,わかりやすい文章の書き方などは参考になります.

酒井聡樹(2015)これから論文を書く若者のために 究極の大改訂版.共立出版.
私が持っているのはこの前のバージョンである「大改訂増補版」ですが,上記2冊のさらに先,投稿から査読対応まで書かれています.

ピストンコアラの揚収風景.錘の先のパイプが海底に突き刺さって,海底堆積物を抜き取ってきます.

PEPS大気水圏科学セクション編集委員 / 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 池原 研



2016年3月29日火曜日

PEPS 3年目への期待

PEPS大気水圏科学セクション編集委員の杉田 文です。

今年も桜の咲く季節となり、2014年4月に創刊されたPEPSはこの春から3年目に入ります。 私は千葉商科大学という社会系の小さな大学に勤めておりますが、専門は地下水学で、2013年に、日本地下水学会と日本水文科学会からの派遣という形で編集委員会に加えさせていただきました。以来、実は今日まで、あまり編集委員らしい仕事をしていないのですが、時間だけは2年も経ちましたので、感想を少し述べさせていただきます。

最初にPEPSのお話を伺った時は、オープンアクセスという出版方式に興味津津、しかも、基礎となる既存雑誌が無いところから学術誌を創刊するとのことで、どうなることかと、楽しみと少し不安が入り混じった気持ちで最初の編集委員会に出かけたことを覚えています。その後、PEPSは、編集委員長の先生方のReviewによると、昨年末までに75編の論文等の掲載、14000件を超すアクセスと7000編を超すダウンロードがあったといいますから、着々と一流の国際誌へと成長、発展をしていると言えます。

一方、私の専門分野では、JpGU大会での発表は数多くありますが、PEPSへの投稿は多くはなく、開店休業のような状態です。原因の一つは周知不足、そのほか、質の高い国際誌ということで、様子を見ている研究者が多いことが挙げられます。前者の周知不足については、関連学会にPEPSが優れた学術誌に成長しつつある現状を広く伝える努力をしようと考えています。

後者についてですが、私どもの分野では、特に日本を研究対象とした論文を欧米の学術誌に投稿すると、ローカルな研究として過小評価される傾向があり、国際誌というと投稿を躊躇することがあるようです。実際に、フィールド研究に基づくプロセス解明といった内容の投稿原稿が、ある国際誌でローカルな研究であると、門前払いにあってしまったという話も聞きました。これは欧米の学術誌に悪意があるわけではなく、単純に聞きなれない地名や現象からそのような判断になるのではないかと思います。アジアの他国の研究者も同様の経験をしているかもしれません。PEPSは日本発、アジア発の国際誌です。今後、日本やアジアの地球惑星科学コミュニティー発展のためにも、PEPSが日本やアジアをフィールドとした質の高い研究成果を報告する場としての役割も担っていくことを期待したいと思います。

JpGU大会でそのような素晴らしい発表をされた研究者、または発表した研究者を御存知の先生方におかれましたては、是非、PEPSへの投稿をご検討いただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

PEPS大気水圏科学セクション編集委員 / 千葉商科大学 杉田 文




2016年3月3日木曜日

良い雑誌に投稿するということ

PEPS大気水圏科学セクション編集委員の大手 信人です。

僕が初めてちゃんとした雑誌に論文を投稿したのは1994年でした。投稿先はAmerican Geophysical Union のWater Resources Researchで、当時は印刷した原稿を何部かクリップで留めて、郵便でワシントンDCまで送っていました。一部始終をいまでもはっきり覚えています。担当してくれたeditorはUniversity of VirginiaのGeorge Hornbergerさんでした。当時は英文校閲のビジネスもなかったので、アメリカ人の友人に見てもらってはいましたが、つたない英文の原稿を、辛抱強く読んでくれて査読に回してくれました。3ヶ月くらい後だったでしょうか、査読が終わってdecisionが送られてきましたが、結果はreject。ですが、Hornbergerさんのコメントは、査読者のコメントをよく読んで、それに対応して、もう一度投稿しなさいというものでした。それだけではありません。手紙(文字通り、手紙です。紙に印刷されたLetter。)には、どのようにリバイズすればいいのか、どうしたらもっと読者に情報がうまく伝わるのか、それを事細かに指摘し、僕に教えてくれていました。それからまる一年の間に、リバイズ、再投稿、major revisionの指示、リバイズ、再々投稿、minor revisionの指示、再々再投稿を経て、ようやくacceptをもらいました。その間、Hornbergerさんは、僕に何度も的確なリバイズの指示をだしてくれましたが、それよりありがたかったのは、論文を完成させるように、ずっと僕を励まし続けてくれたことでした。いってはなんですが、そのころの自分のボスよりもずっと心強い存在でした。

当時、僕は駆け出しですから、Hornbergerさんがどれほどの人だったかをわからずに、親切なeditorにあたってよかったな、などと思っていましたが、だいぶたってから、彼がHolton Awardをはじめ、数々の賞を受賞している水文学のbig nameだったとわかりました。改めて、ああ、ありがたかった、さすが、Georgeと思いました。

Beginner’s luckだったかもしれません。しかし、定評のある一番良い雑誌のeditorial boardには、ちゃんとした人がいて、その人が回すreviewerもちゃんとした人で、投稿者の気持ちも読者の気持ちもちゃんと考えているのだということを、国際誌への最初の投稿で勉強させてもらいました。良い雑誌に投稿するということは、そのようなことであると、これから論文を書いていこうという若い人達にわかって欲しいし、自分がHornbergerさんのようなeditorでありたいと思います。


PEPS大気水圏科学セクション編集委員 / 京都大学 大学院 情報学研究科 大手 信人


2016年2月17日水曜日

査読者の心構え

PEPS大気水圏科学セクション編集長の佐藤正樹です。

1月21日のWileyのブログサイトに、「Wileyが査読に関するオンライン調査の結果を発表 / 査読者に対するインセンティブやトレーニングのあり方に重要な示唆」という記事1)が掲載されました。PEPSでも査読者にインセンティブを持たせるための方策を議論しているので、参考になりました。

査読者としてのインセンティブは何でしょうか。金銭的な報酬ではないでしょう。自分のコメントが適切に著者の論文の改善に役立つこと、エディターにも評価されること、査読者へのフィードバックがあることが査読者にとってうれしいことではないでしょうか。最新の研究に一番早く触れることができることも査読者のメリットです。若い方には、査読回数が業績としてカウントされるとより積極的に査読に関わることができるかもしれません。実際、自分のCVに、査読の回数を書き込む方もいらっしゃいます。ジャーナルからofficial な証明書や感謝状を出してもよいかもしれません。学会によっては、優秀な査読者に賞を授与することもあります。(優秀な査読者=断らずに何度でも引き受けてくれる査読者でありますが、建設的なコメントを的確に返してくださる方が評価されます。)

さて、Wileyの記事1)にもありますが、査読のためのトレーニングを今後さらに受けることを希望される方が多いようです。JpGUやAGUでも講習会を行っていますので、機会があればぜひご参加ください2)。また、多くのジャーナルでは、査読者へのガイドライン3)4)を公表していますので、ぜひ一読ください。このブログでは、私見になりますが、いくつか査読者の心構えをあげておきましょう。

査読は建設的に:著者が具体的に対応できるようにコメントするべきです。また、最近のNatureの記事5)6)の紹介がありましたが、「査読者がそれほど必要ではない修正を要求するのをやめること」を多くの方が要望しているようです。査読者も論文を出版するまでに時間の短縮に協力すべきでしょう。特に若い方に他者に寛容でないコメントをする場合が少なからず見受けられます。査読の際には、攻撃的にならないように心がけて欲しいと思います。特に、自分の論文が引用されていないからといって、批判してはいけません。シニアな方でも、他のグループの論文に必ず攻撃的になる人がいますが、業界で嫌われます。

2度目の査読の際に、新しい点を指摘しない:最初の査読の際に指摘しなかったことを、2度目以降の査読で指摘しないように。後出しジャンケンといわれます。改訂のたびに新しい指摘が出てくると、著者は先が見えない憂鬱な気分になります。こういう場合には、著者はエディターに訴えてもよいです。ただし、改訂の際に、大幅に変更になった場合にはこの限りではありません。

What’s new:ジャーナルにもよりますが、通常「何が科学的に新しいか」が評価基準になります。枝葉にとらわれずに、既存の研究に比べて何が新しいのかが明瞭かどうかでMajor revision /Minor revision /Reject の判断基準とすべきでしょう。またその新しさの程度は、ジャーナルによって要求されるレベルが異なります。Nature/Science級のジャーナルと一般的な学会誌には判断基準が異なることはわかると思います。新しさの程度(strong - weak)の基準がそれぞれのジャーナルによって異なります。PEPSの場合には、中程度といったところでしょうか。

査読の依頼は断らない:分野が明らかに異なる場合を除いて、査読の依頼は基本的に断るべきではありません。自分の論文一編に対して2名以上の査読者が寄与していることを考えるのであれば、査読者として貢献しなければならないことがおわかりでしょう。より適切な査読者が身近にいる場合には、お断りの際にコメントをつけて推薦をすることでもよいです。一方で、最近乱立する商業ジャーナルからの査読の依頼は要注意です。編集者やエディターが知らない人の場合には特にそうです。システムがこなれてない場合があり、せっかく用意した査読コメントが、締切を一日過ぎただけで受け取ってもらえなかったという話を聞いたことがあります。

また、必ずしも一般的かどうかわかりませんが、私は多くの場合Major revisionとします。あまりRejectしませんし、あまりMinor revisionとしません。せっかく査読するので、著者にはコメントを真摯に受け止めてもらいたいものです。Rejectとすると反映する機会が失われるし、Minor revisionとするとあまり深刻に改訂してくれないかもしれないと考えるからです。箸にも棒にかからないひどい論文も確かにありますが、そういった論文はエディターで判断して査読にまわすべきではないでしょう。こういった査読のノウハウはそれぞれの人に蓄積があるので、若い人は機会をみつけてシニアな方にいろいろときかれるとよいと思います。

参考情報:
1) Wileyが査読に関するオンライン調査の結果を発表 / 査読者に対するインセンティブやトレーニングのあり方に重要な示唆(投稿日: 2016年1月21日)


2) AGU Workshops for Authors and Reviewers(投稿日: 2016年2月2日)


3) A Quick Guide to Writing a Solid Peer Review, EOS, 92, 233-240 (2011)


4) 米国気象学会:Reviewer Guidelines for AMS Journals


5) 国立国会図書館:論文を出版するまでに時間がかかりすぎる?(投稿日 2016年2月16日 )


6) Does it take too long to publish research?, Nature, 530, 148-151 (2016) (投稿日2016年2月10日)
PEPS大気水圏科学セクション編集長 / 東京大学 大気海洋研究所 佐藤 正樹

2016年2月2日火曜日

動画つき論文も受け付けています

PEPS Editors’ Blogをお読みの皆様、こんにちは。PEPS事務局の岡田と申します。

いつもは編集長、編集委員の先生方からの格調高い記事ですが、今回は趣向を変え、意外と知られていないPEPSの情報を、事務局からお知らせします。

PEPSはどなたでも無料でお読みいただけるOpen Access方式を採用し、オンラインのみの電子ジャーナルとして出版しています。旧来の論文誌とは異なり、紙媒体での出版はおこなっておりません。そのため、大量の図表はもちろん、”Supplementary Material”として動画ファイルも投稿できます。テキストと静止画だけでは表現することが難しかった研究成果も、動画を利用すれば分かりやすく伝えることができます。既に下記2編の論文では、図表と共に動画も掲載されています。

Shaking conditions required for flame structure formation in a water-immersed granular medium
Nao Yasuda and Ikuro Sumita
Progress in Earth and Planetary Science 2014, 1:13
doi:10.1186/2197-4284-1-13

Observations of GPS scintillation during an isolated auroral substorm
Keisuke Hosokawa, Yuichi Otsuka, Yasunobu Ogawa and Takuya Tsugawa
Progress in Earth and Planetary Science 2014, 1:16
doi:10.1186/2197-4284-1-16


また、出版論文PDFの1ページ目に掲載されるカバー画像も投稿できるようになりました。ひと目で論文の内容を想像できる画像を表紙として掲載することで、論文へのアクセス増加が期待できます。
多くの人に論文を読んでもらい、研究の内容を分かりやすく伝えるために、動画やカバー画像をぜひご利用ください。


日本地球惑星科学連合 ジャーナル出版部 PEPS事務局 岡田 まゆみ




2016年1月5日火曜日

総編集長の頭痛の種

PEPS総編集長の井龍です.

新年明けましておめでとうございます.今年も,PEPSをよろしくお願いいたします.

さて,新年早々非常に重い話題ですが,今回は不適切なオーサーシップと二重投稿について述べてみたいと思います.

ここ数年,研究不正の話題が多く報道されるようになりました.STAP細胞に関する論文の件はあまりにも有名ですが,ウェブで検索すると非常に多くの事案がみつかります.ある分野では,論文の約7割に,多かれ少なかれ研究倫理上の問題があるとの指摘もあります.このような事態を受けて,2015年2月には,日本学術会議より「科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得-」が,8月には文部科学省より大臣名で「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」が発表されました.また,各学会から出版されている学会誌においては,不適切なオーサーシップや二重投稿の定義を明確にし,そのような行為の発生防止を呼びかけるよう,日本学術会議から要請がありました.これは,皆様が所属されている学協会および学協会誌でも例外ではないと思います.
学術会議および文科省のガイドラインで示されている適切なオーサーシップ(オーサーとして適格であるために満足すべき要件)は,非常に厳しい内容になっています.これは,オーサーとしての責任を果たしていないにも関わらず,オーサーとして名前を列ねている事例が非常に多く(というより,蔓延しており),看過できなくなっているためだと思われます.特に,ギフト・オーサーシップに関しては,年配の研究者の理解度が低く,また両ガイドラインに対する反発も大きいようです.しかし,「オーサー全員が論文の内容に責任をもつこと」は,科学者として当然の行為であり,その厳格な適用が世界的な潮流となりつつあることを理解すべきだと思います.さて,PEPSは50学協会が所属する日本地球惑星科学連合(JpGU)の雑誌であり,全学協会の事情を勘案したガイドラインを作成するのは,簡単ではありません.そこで,昨年は,各学協会の動向を注視していたところですが,今年は,PEPSのガイドライン作成に向け,まずはエディターによる議論を始めたいと思っております.連合の会員の皆様に御意見を求めることもあるかと思いますが,その際には,是非,御協力下さい.

一方,二重投稿や剽窃への対応策として,PEPSが出版のプラットフォームとしているSpringerOpenでは,剽窃防止ソフトウェアiThenticateが導入されています.皆様が投稿した原稿の全てのバージョンが自動的にiThenticateでチェックされ,これまでに出版された学術論文だけでなく,ウェブに掲載されている文章とのマッチ率が計算・表示されます.残念なことに,このソフトウェアは一定の成果を挙げており,数編の悪質な投稿原稿を発見することができました.これとは別に,二重投稿に関しては,国内の査読なしジャーナル掲載論文との内容重複の可否について,分野間で認識の不一致があり,今後の議論が必要な状況です.

不適切なオーサーシップと二重投稿のような非倫理的行為は決してなくなるものではないと思いますが,大多数を占める真面目な研究者・院生・学生が不利益を被らないよう尽力して行きたいと思います.
ちょっと堅めの年頭挨拶でした.

PEPS総編集長 / 東北大学大学院 理学研究科 地学専攻 井龍康文