[Japanese text follows English. 日本語版は英語版の後に表示します。]
On behalf of the staff and editors of PEPS I would like to wish everyone a very happy new year.
In the second half of last year PEPS received two very important pieces of good news. First PEPS was registered in Elsevier’s abstract and citation database Scopus and then towards the end of the year we were included in Clarivate Analytics’ (formerly Thomson Reuter’s) Science Citation Index Expanded(SCIE). SCIE is made available online through the Web of Science and is used to calculate journals’ impact factors: we expect our first impact factor to be announced this summer. Whilst there is no formal definition of what it means to be a top-level journal, I think that being included in the impact factor calculations would be a criterion that many would agree on, and I hope that I can say without contradiction that our inclusion in SCIE has confirmed PEPS’s place amongst the leading international journals in our field.
PEPS received its first manuscript at the end of 2013 and we published our first papers in April 2014. Although many researchers were naturally concerned about submitting to a journal without an IF calculation we were gratified by the support that we received from the global geoscience community. I am pleased to say that we never suffered from a shortage of submissions and ever since our launch we have been able to publish first rate scientific papers on a regular basis. This was of course due to the high quality of the manuscripts that we received from around the world (in 2017 we received more than 100 submissions), but it is also due to the speed and accuracy with which all of our reviewers processed papers for us. The PEPS editors would therefore like to take this opportunity to express our sincere thanks to our reviewers for all of their hard work, and to express again our intention to continue to build on our recent successes to further cement PEPS’s position as one of the leading geoscience journals.
PEPS is an open access e-journal, and authors are required to pay an article processing charge (APC) when their papers are published. When we launched our journal the open access publishing model was relatively unknown in Japan, and we received some criticism for choosing this format. We therefore actively used platforms provided by events such as at the JpGU Annual Meeting to try to explain the meaning and significance of open science and open access. In common with a number of countries, the Japanese government has been promoting the open science concept, and it is likely that they will require that scientific research results that are funded by public money be published in an open access journal where possible. We are working to position PEPS as a suitable journal for high quality geoscience papers.
On a slightly negative note, we have heard that some of the data that was used in a paper published last year in a field closely related to geoscience may have been falsified. If this is true then it must be roundly condemned. Referees of course check papers and their data for scientific accuracy, but they do so under the assumption that authors have acted in good faith and are not trying to cheat the system. At PEPS we therefore use the online plagiarism detection tool iThenticate, and have prepared and displayed authorship guidelines to try to ensure that all papers published in our journal fairly and impartially present the results of real research work.
We have recently introduced a new category of paper that we call “Paper with full data attached”. These allow researchers to present the full data sets that were collected whilst doing the published work. We hope that these data sets will be useful to other researchers.
Finally please let me wish you all a prosperous and successful 2018.
Yasufumi Iryu
PEPS Editor in Chief
新年明けましておめでとうございます.PEPS総編集長の井龍康文です.年頭にあたり,PEPS編集委員会を代表して,国内外の地球惑星科学コミュニティーの皆様方に,ご挨拶申し上げます.
昨年の後半に,PEPSにとって大変喜ばしいニュースが2つ舞い込んできました.PEPSが,Elsevier社の抄録・引用文献データベースScopus,およびClarivate Analytics社(旧Thomson Reuter社)のWeb of Scienceによる引用文献データベースScience Citation Index Expanded(SCIE)に採録されることになったというニュースです.後者に採録されると,雑誌の被引用度の代表的な指標であるインパクト・ファクター(IF)が付与されます.PEPSの最初のIFは,今年夏に発表される予定です.よく国際誌という語が用いられますが,その明確な定義がある訳ではありません.しかし,IFが付与されているか否かが,その判断基準にされることが多いようです.よって,PEPSは国際誌として認知されるところまで到達したと言ってよいと思います.
PEPSは,2013年に投稿受付を開始し, 2014年4月に最初の論文が出版されました.創刊当初,IFが付与されていない雑誌に投稿していただけるか大変心配しましたが,JpGUの会員の方々および海外の地球惑星科学コミュニティーの方々から積極的に投稿していただき,原稿不足になることは一度もありませんでした.そして,2017年の投稿原稿数は100編を超えるに至りました.
過去5年間,クオリティーの高い論文を安定して出版できましたのは,JpGUの会員を始めとする国内外の地球惑星科学コミュニティーの方々からの積極的なご投稿,査読者の皆様の迅速かつ的確な査読の賜物です.ここに,心より感謝いたします.また,出版論文を読み,引用してくださった読者の皆様にもお礼申し上げます.ScopusおよびSCIEへの採録を機に,PEPSが世界における地球科学コミュニティーのリーディングジャーナルとなるよう尽力していきたいと思いますので,引続き,PEPSへのご協力をお願いいたします.
PEPSは,オープンアクセスの電子ジャーナルで,論文掲載に際しては,Article Processing Charge (APC)をいただいております.創刊当時は,オープンアクセスを単なる出版社の新たなビジネスモデルと理解されている方も少なくなく,そのようなジャーナルの出版を進めていることを批判されることもありました.そのため,連合大会におけるセッション等を利用して,オープンサイエンスやオープンアクセスの意義の周知にも努めてきました.日本は,国としてオープンサイエンスを推進しており,今後,公的資金で実施される研究の成果のオープンアクセスという形での公開が,いっそう強く求められると予想されます.PEPSは,地球科学分野のオープンアクセスジャーナルの先駆けとして,その受け皿になるべく努力していきたいと思います.
さて,昨年,地球惑星科学に関連分野のある論文に対して,データの一部に捏造の可能性が高いという指摘がなされました.事実とすれば,誠に遺憾な行為と言わざるをえません.一般に,論文の査読では,データが科学的に正しいか否かはチェックされますが,そこでは捏造や剽窃・盗作の可能性は想定されていません.PEPSでは,剽窃・盗作検知のオンラインツールであるiThenticateを導入するとともに,オーサーシップガイドラインを作成・提示し,研究成果が公正な形で公開されるように努めています.また,論文に関わる研究で得られたデータを公開できる場として,Paper with full data attachedという新たなタイプの論文形式も提供しています.
2018年が,皆様とPEPSにとって,飛躍の年になることを祈念しております.
PEPS総編集長
井龍 康文
PEPS Editors' Blog
Progress in Earth and Planetary Science
2018年1月5日金曜日
2017年10月4日水曜日
投稿論文の採択率を上げるには
PEPS 固体地球科学セクション編集長の吉岡です。
ご存知の通り、PEPSの推進母体である日本地球惑星科学連合(JpGU)は、今年5月AGUと共催でJpGU-AGU Joint Meetingを開催し、成功裏に終わりました。JpGUでは、学会期間中、口頭発表、ポスター発表のみならず、いろいろな取り組みを行っており、学会参加者向けのセミナーなども行っています。私は今年、「Tips for increasing acceptance rates and impact factors of research manuscripts」というセミナーに参加してきました。本稿を読まれている方の中にもこのセミナーに参加された方がおられることと思いますが、その内容の概略や私が感じたことを中心に書き連ねてみたいと思います。
セミナーは株式会社ELSS 代表取締役のRick Weisburd氏が主導し、英語で1時間ほどで行われました。氏はライフサイエンスの博士の学位を取得しており、長年日本に滞在し、日本人研究者が書いた多くの論文の英語を添削してきた実績を持っています。セミナーの内容は、本稿のタイトルの通り、論文の採択率を上げるにはどうしたらよいか、そのコツに関するものでした。氏によれば、12のコツがあるとのことで、それは、テクニカルなコツと、どうやって筆者の伝えたいことを正確に読者に伝えるかのコツ、の2つに大別されるように思いました。前者では、
・適切な雑誌を選択する
・適切な査読候補者名を挙げ、不適切な査読候補者は避ける
・投稿論文が却下されたら、改訂を行い、同じ分野の別の雑誌に投稿し直す
といったことがコツとして挙げられていましたが、ここでは、後者について、もう少し踏み込んでみてみたいと思います。
その前に、私の研究室の論文投稿に関する現状を書いてみます。研究室にポスドクや学生が多いこともあり、私は、彼らが書いた論文(投稿論文、博士・修士・卒業論文)や国際学会の予稿原稿を加筆修正する機会が少なからずあります。英語表現の問題以前に、書かなくてよいことまで詳しく書いていたり、書くべきことを書いていなかったり、また、前後の文との繋がりや全体の流れが悪いと感じることが少なからずあります。まず、そのような点に関して、大幅な添削を行って、本人に返却し、再度、推敲し直し、修正版を提出してもらってからようやく英語の加筆修正が始まります。この段階では、何を言いたいのか理解できない文が散見されます。文法や構文が正確でなかったり、文が長く、どの単語が主語に対応する述語なのかわからなかったり、適切な専門用語が使われていなかったり、といったことが理解できない主な原因です。このような有様で、論文や予稿原稿が一通り完成するまでに、最低3往復くらいはかかってしまいます。いつも研究室のポスドクや学生には、「独りよがりではなく、読者を常に意識した客観的な文章を書くように。」と伝えているのですが、難しいようで、目に見えるような進歩はなかなか見られません。教育の難しさを感じる今日この頃です。
さて、上述のセミナーの内容の後者のどうやって筆者の伝えたいことを正確に読者に伝えるかのコツに話を戻すと、まさにこのような点が指摘されており、大いに共感できました。まずは、論文を書く前に、論文の構成をしっかりと練り上げることが挙げられていました。この点は、2016年4月のPEPS編集委員の池原氏のPEPSブログ『わかりやすい原稿を書こう』の内容と通ずるものがあります。
また、セミナーでは以下の4つの英文を例に挙げ、筆者が読者に対してDonを良い人間と思わせたいか、それとも、悪い人間と思わせたいか、それはなぜか、といった説明もありました。
a. Although Don’s a nice guy, he beats his dog.
b. Although Don beats his dog, he’s a nice guy.
c. Don’s a nice guy, but he beats his dog.
d. Don beats his dog, but he’s a nice guy.
これなどは短文でわかりやすい例ですが、いざ論文を執筆するとなったとき、筆者が読者へ自分の意図を英語で正確に伝える文章を書くことの難しさを浮き彫りにしている例と言えるでしょうか。また、関係代名詞やカンマでつながれた長文は、複数の文に分けること、動詞はなるべく主語の直後に置くこと、も文意を正確に伝えるためのコツとして挙げられていました。
また、弱い動詞ではなく、強い動詞を使うことも挙げられており、このことはこれまであまり意識したことがなかったのでためになりました。例えば、
Measurement of the particle diameters was carried out.
We performed measurements of the particle diameters.
は弱い動詞の使用例で、
We measured the particle diameters.
The particle diameters were measured.
と書く方が強い動詞を使っているので、好ましいとのことでした。
また、アメリカの小説家でノーベル文学賞受賞者のErnest Hemmingwayの言葉 “The first draft of anything is shit !” を引用し、共著者全員で、繰り返し加筆修正をすることが重要とも力説していました。ちょっと横道に逸れますが、Hemmingwayは多くの名言を残しており、『ヘミングウェイの名言・格言』などに掲載されているので、興味のある方はご覧になってみて下さい。このように多くの名言を残した偉人でさえ、上記のように言うのですから、我々はなおさらです。やはり、論文の完成に近道はなく、時間と労力をかけるべし、鍛錬を積んで論文の書き方を磨いていくべし、ということのようです。
その他、『AGU Grammar and Style Guide』などもお勧めの参考文献として挙げられていました。このサイトを見てみたところ、英語を母国語としない我々にとって論文を書く上で役立つ情報が満載で、ご覧頂くと参考になるようなことも少なからずあると思います。
このセミナーに参加してみて、論文執筆の際、これまで全く意識していなかったことが身につき、また、無意識のうちに実践してきたことが体系的に整理し直されました。それとともに、英語でわかりやすい論文を書き、投稿論文の採択率を上げることの難しさを改めて痛感した次第です。ぜひ、読者の皆さんも少し立ち止まって、このようなことにも思いを馳せながら、論文を執筆してみてはいかがでしょうか?
ご存知の通り、PEPSの推進母体である日本地球惑星科学連合(JpGU)は、今年5月AGUと共催でJpGU-AGU Joint Meetingを開催し、成功裏に終わりました。JpGUでは、学会期間中、口頭発表、ポスター発表のみならず、いろいろな取り組みを行っており、学会参加者向けのセミナーなども行っています。私は今年、「Tips for increasing acceptance rates and impact factors of research manuscripts」というセミナーに参加してきました。本稿を読まれている方の中にもこのセミナーに参加された方がおられることと思いますが、その内容の概略や私が感じたことを中心に書き連ねてみたいと思います。
セミナーは株式会社ELSS 代表取締役のRick Weisburd氏が主導し、英語で1時間ほどで行われました。氏はライフサイエンスの博士の学位を取得しており、長年日本に滞在し、日本人研究者が書いた多くの論文の英語を添削してきた実績を持っています。セミナーの内容は、本稿のタイトルの通り、論文の採択率を上げるにはどうしたらよいか、そのコツに関するものでした。氏によれば、12のコツがあるとのことで、それは、テクニカルなコツと、どうやって筆者の伝えたいことを正確に読者に伝えるかのコツ、の2つに大別されるように思いました。前者では、
・適切な雑誌を選択する
・適切な査読候補者名を挙げ、不適切な査読候補者は避ける
・投稿論文が却下されたら、改訂を行い、同じ分野の別の雑誌に投稿し直す
といったことがコツとして挙げられていましたが、ここでは、後者について、もう少し踏み込んでみてみたいと思います。
その前に、私の研究室の論文投稿に関する現状を書いてみます。研究室にポスドクや学生が多いこともあり、私は、彼らが書いた論文(投稿論文、博士・修士・卒業論文)や国際学会の予稿原稿を加筆修正する機会が少なからずあります。英語表現の問題以前に、書かなくてよいことまで詳しく書いていたり、書くべきことを書いていなかったり、また、前後の文との繋がりや全体の流れが悪いと感じることが少なからずあります。まず、そのような点に関して、大幅な添削を行って、本人に返却し、再度、推敲し直し、修正版を提出してもらってからようやく英語の加筆修正が始まります。この段階では、何を言いたいのか理解できない文が散見されます。文法や構文が正確でなかったり、文が長く、どの単語が主語に対応する述語なのかわからなかったり、適切な専門用語が使われていなかったり、といったことが理解できない主な原因です。このような有様で、論文や予稿原稿が一通り完成するまでに、最低3往復くらいはかかってしまいます。いつも研究室のポスドクや学生には、「独りよがりではなく、読者を常に意識した客観的な文章を書くように。」と伝えているのですが、難しいようで、目に見えるような進歩はなかなか見られません。教育の難しさを感じる今日この頃です。
さて、上述のセミナーの内容の後者のどうやって筆者の伝えたいことを正確に読者に伝えるかのコツに話を戻すと、まさにこのような点が指摘されており、大いに共感できました。まずは、論文を書く前に、論文の構成をしっかりと練り上げることが挙げられていました。この点は、2016年4月のPEPS編集委員の池原氏のPEPSブログ『わかりやすい原稿を書こう』の内容と通ずるものがあります。
また、セミナーでは以下の4つの英文を例に挙げ、筆者が読者に対してDonを良い人間と思わせたいか、それとも、悪い人間と思わせたいか、それはなぜか、といった説明もありました。
a. Although Don’s a nice guy, he beats his dog.
b. Although Don beats his dog, he’s a nice guy.
c. Don’s a nice guy, but he beats his dog.
d. Don beats his dog, but he’s a nice guy.
これなどは短文でわかりやすい例ですが、いざ論文を執筆するとなったとき、筆者が読者へ自分の意図を英語で正確に伝える文章を書くことの難しさを浮き彫りにしている例と言えるでしょうか。また、関係代名詞やカンマでつながれた長文は、複数の文に分けること、動詞はなるべく主語の直後に置くこと、も文意を正確に伝えるためのコツとして挙げられていました。
また、弱い動詞ではなく、強い動詞を使うことも挙げられており、このことはこれまであまり意識したことがなかったのでためになりました。例えば、
Measurement of the particle diameters was carried out.
We performed measurements of the particle diameters.
は弱い動詞の使用例で、
We measured the particle diameters.
The particle diameters were measured.
と書く方が強い動詞を使っているので、好ましいとのことでした。
また、アメリカの小説家でノーベル文学賞受賞者のErnest Hemmingwayの言葉 “The first draft of anything is shit !” を引用し、共著者全員で、繰り返し加筆修正をすることが重要とも力説していました。ちょっと横道に逸れますが、Hemmingwayは多くの名言を残しており、『ヘミングウェイの名言・格言』などに掲載されているので、興味のある方はご覧になってみて下さい。このように多くの名言を残した偉人でさえ、上記のように言うのですから、我々はなおさらです。やはり、論文の完成に近道はなく、時間と労力をかけるべし、鍛錬を積んで論文の書き方を磨いていくべし、ということのようです。
その他、『AGU Grammar and Style Guide』などもお勧めの参考文献として挙げられていました。このサイトを見てみたところ、英語を母国語としない我々にとって論文を書く上で役立つ情報が満載で、ご覧頂くと参考になるようなことも少なからずあると思います。
このセミナーに参加してみて、論文執筆の際、これまで全く意識していなかったことが身につき、また、無意識のうちに実践してきたことが体系的に整理し直されました。それとともに、英語でわかりやすい論文を書き、投稿論文の採択率を上げることの難しさを改めて痛感した次第です。ぜひ、読者の皆さんも少し立ち止まって、このようなことにも思いを馳せながら、論文を執筆してみてはいかがでしょうか?
PEPS 固体地球科学セクション編集長 / 神戸大学 都市安全研究センター/大学院理学研究科 惑星学専攻 吉岡 祥一 |
2017年8月23日水曜日
Research publication through the Internet and the role of review
Professor Hitoshi Mikada, Graduate School of Engineering, Kyoto University
In the PEPS Editors' blog in October 2015, I confessed that it was a laboratory policy not to refuse the favor to review papers submitted to scientific journals and that the consequence at the time was to review regularly double digits number of papers every year. Since 2016, the number of reviews has drastically decreased and is now far less than 10. I do not know why a sudden change has taken place but imagined an English translation of my text in the blog could make editors to feel a little sorry for inviting me for review. However, the number of peer-reviews to proceedings and abstracts for international meetings for the acceptance has become three-digits per meeting at the same time and the total time cost may become the same as before. When serving as a convener to a session of the Fall Meeting of the American Geophysical Union more than a decade ago, I confess that I rejected two submissions out of 40 to 50 and the rate of acceptance was about 95%. As the Society of Petroleum Engineers sets the ceiling in the number of acceptable papers up to 30% of the total number of submissions, peer-reviews of abstracts and proceeding papers for engineering international meetings are very important to reject submissions that do not deal with researches beyond a certain scientific datum. The reviews to submissions to scientific journals or engineering society meetings are to ensure the quality of research publications. The system of peer-reviewing is purely supported by anonymous reviewers responsible for maintaining the level of the academia, and I would like to deal with the review system as a topic from a standpoint a little higher than last time. The contents are from what I give to students in the class of engineering ethics in the Undergraduate School of Engineering, Kyoto University.
Seven years have passed since Mr. Jeffrey Beall of the University of Colorado at Denver (UCD) created the word "Predatory Journal." According to Butler (2013), Mr. Beall noticed a rapid increase in the number of direct emails to invite people to submit manuscripts to open journals around 2008 and numerous grammatical errors in the messages that triggered Mr. Beall to jump into the predatory journal problem. Mr. Beall used a set of criteria (Beall, 2012) to list up predatory journals and publishers and continued to publish and update what is called the Beall's List on a web site in UCD until the end of 2016. The number of predatory publishers in the Beall's List was 18 in 2011 has reached 923 on December 31, 2016. No researchers who were watching the site have not at all been noticed but the site was suddenly closed in January 2017 this year (Silver, 2017a) and seven months have passed since then. The readers may remember a lot of speculations for reasons of the sudden site closure and complaints when the Beall's List was suddenly lost. Since June this year, the list of predatory journal and publishers based on different criteria from the Beall's List was published for sale by a private company in the United States (Silver, 2017b). I feel that there really was a demand to the list of predatory journals and publishers in the academia.
In 2013, an article dealing with the results of a survey on peer-review of open access journals was published (Bohannon, 2013). Mr. John Bohannon assumed a false biologist Ocorrafoo Cobange of a false institute Wassee Institute of Medicine and wrote a paper to claim "a chemical substance extracted from lichens has shown anticancer properties." The manuscript he had prepared included mistakes and defective figures easily distinguishable by whom studied high-school level chemistry. Two months after the submission of the manuscript to 304 open access journals, 157 journals have accepted the paper for submission and 29 journals seemed to be derelict. Surprisingly, the rate of acceptance of his fake paper was 57% (52% even including 29 discontinued). Mr. Bohannon has included publishers in the Beall's list and it was also reported 82% of the predatory publishers have accepted the fake paper. The rate of paper acceptance by the publishers in the Beall's List have proven the applicability of the Beall's List. It was also surprising to see a journal published by Elsevier accepted the fake paper.
As is clear from the publication of the Beall's List and the findings of Bohannon (2013), researchers who want to have their papers printed and publishers who wants to earn what are paid by authors share the common objective to publish papers and the combination of the two risks research misconducts. There seems to be even cases in which fake impact factors are shown on the web site of such journals. Any changes in publishers such as in the intention for a reputation, for the presence, the succession of publisher's owners, or editor-in-chief, could influence the level of acceptance of submitted manuscripts, in which journals could risk becoming predatory. In academia, which is made up of maintaining the quality of research results, the number of papers and the impact factor of journals for which the publication of papers is done have been implicitly regarded as criteria for evaluation of researchers for a long time. However, it is interpreted that a whistle was blown to ask us if it is necessary to monitor the journals and publishers in terms of scientific values as a function of time by some means. At the same time, I think that it is necessary to recognize the importance of peer review process in maintaining academia's research level.
In Kuroki (2016), it is stated that Japan is the world fifth country in the retraction rate of papers. The rate of paper retraction has a big gap between the world fifth and sixth and it is an urgent task necessary to take prompt and effective countermeasures in countries down to the world fifth place including Japan. It is the Internet that cultivated the ground of predatory journals, but at the same time that founded a workplace for the disclosure of research misconducts. In order to gain the confidence to research integrity, I would like to propose editors and reviewers of PEPS to keep a sense of responsibility and enthusiasm and remind them how the peer review plays a big role in the advancement of science.
Beall, J., 2012, Criteria for Determining Predatory Open-Access Publishers (2nd edition), available at https://web.archive.org/web/20130603123106/http://scholarlyoa.com/2012/11/30/criteria-for-determining-predatory-open-access-publishers-2nd-edition/ (accessed on August 20, 2017).
Bohannon, J., 2013, Who's Afraid of Peer Review?, Science (04 Oct 2013), 342 (6154), 60-65, doi: 10.1126/science.342.6154.60.
Butler, D., 2013, Investigating journals: The dark side of publishing, Nature, 495, 433–435 (28 March 2013), doi: 10.1038/495433a.
Kuroki, T., 2016, Kenkyu-Fusei (Research Misconduct: translated by Hitoshi Mikada on August 22), Chuko-Shinsho 2373, Chuokoronsha, 302pp., ISBN: 978-4-12-102373-5. (in Japanese)
Silver, A., 2017a, Controversial website that lists ‘predatory’ publishers shuts down, Nature News (18 January 2017), doi: 10.1038/nature.2017.21328.
Silver, A., 2017b, Pay-to-view blacklist of predatory journals set to launch, Nature News (31 May 2017), doi: 10.1038/nature.2017.22090.
In the PEPS Editors' blog in October 2015, I confessed that it was a laboratory policy not to refuse the favor to review papers submitted to scientific journals and that the consequence at the time was to review regularly double digits number of papers every year. Since 2016, the number of reviews has drastically decreased and is now far less than 10. I do not know why a sudden change has taken place but imagined an English translation of my text in the blog could make editors to feel a little sorry for inviting me for review. However, the number of peer-reviews to proceedings and abstracts for international meetings for the acceptance has become three-digits per meeting at the same time and the total time cost may become the same as before. When serving as a convener to a session of the Fall Meeting of the American Geophysical Union more than a decade ago, I confess that I rejected two submissions out of 40 to 50 and the rate of acceptance was about 95%. As the Society of Petroleum Engineers sets the ceiling in the number of acceptable papers up to 30% of the total number of submissions, peer-reviews of abstracts and proceeding papers for engineering international meetings are very important to reject submissions that do not deal with researches beyond a certain scientific datum. The reviews to submissions to scientific journals or engineering society meetings are to ensure the quality of research publications. The system of peer-reviewing is purely supported by anonymous reviewers responsible for maintaining the level of the academia, and I would like to deal with the review system as a topic from a standpoint a little higher than last time. The contents are from what I give to students in the class of engineering ethics in the Undergraduate School of Engineering, Kyoto University.
Seven years have passed since Mr. Jeffrey Beall of the University of Colorado at Denver (UCD) created the word "Predatory Journal." According to Butler (2013), Mr. Beall noticed a rapid increase in the number of direct emails to invite people to submit manuscripts to open journals around 2008 and numerous grammatical errors in the messages that triggered Mr. Beall to jump into the predatory journal problem. Mr. Beall used a set of criteria (Beall, 2012) to list up predatory journals and publishers and continued to publish and update what is called the Beall's List on a web site in UCD until the end of 2016. The number of predatory publishers in the Beall's List was 18 in 2011 has reached 923 on December 31, 2016. No researchers who were watching the site have not at all been noticed but the site was suddenly closed in January 2017 this year (Silver, 2017a) and seven months have passed since then. The readers may remember a lot of speculations for reasons of the sudden site closure and complaints when the Beall's List was suddenly lost. Since June this year, the list of predatory journal and publishers based on different criteria from the Beall's List was published for sale by a private company in the United States (Silver, 2017b). I feel that there really was a demand to the list of predatory journals and publishers in the academia.
In 2013, an article dealing with the results of a survey on peer-review of open access journals was published (Bohannon, 2013). Mr. John Bohannon assumed a false biologist Ocorrafoo Cobange of a false institute Wassee Institute of Medicine and wrote a paper to claim "a chemical substance extracted from lichens has shown anticancer properties." The manuscript he had prepared included mistakes and defective figures easily distinguishable by whom studied high-school level chemistry. Two months after the submission of the manuscript to 304 open access journals, 157 journals have accepted the paper for submission and 29 journals seemed to be derelict. Surprisingly, the rate of acceptance of his fake paper was 57% (52% even including 29 discontinued). Mr. Bohannon has included publishers in the Beall's list and it was also reported 82% of the predatory publishers have accepted the fake paper. The rate of paper acceptance by the publishers in the Beall's List have proven the applicability of the Beall's List. It was also surprising to see a journal published by Elsevier accepted the fake paper.
As is clear from the publication of the Beall's List and the findings of Bohannon (2013), researchers who want to have their papers printed and publishers who wants to earn what are paid by authors share the common objective to publish papers and the combination of the two risks research misconducts. There seems to be even cases in which fake impact factors are shown on the web site of such journals. Any changes in publishers such as in the intention for a reputation, for the presence, the succession of publisher's owners, or editor-in-chief, could influence the level of acceptance of submitted manuscripts, in which journals could risk becoming predatory. In academia, which is made up of maintaining the quality of research results, the number of papers and the impact factor of journals for which the publication of papers is done have been implicitly regarded as criteria for evaluation of researchers for a long time. However, it is interpreted that a whistle was blown to ask us if it is necessary to monitor the journals and publishers in terms of scientific values as a function of time by some means. At the same time, I think that it is necessary to recognize the importance of peer review process in maintaining academia's research level.
In Kuroki (2016), it is stated that Japan is the world fifth country in the retraction rate of papers. The rate of paper retraction has a big gap between the world fifth and sixth and it is an urgent task necessary to take prompt and effective countermeasures in countries down to the world fifth place including Japan. It is the Internet that cultivated the ground of predatory journals, but at the same time that founded a workplace for the disclosure of research misconducts. In order to gain the confidence to research integrity, I would like to propose editors and reviewers of PEPS to keep a sense of responsibility and enthusiasm and remind them how the peer review plays a big role in the advancement of science.
Beall, J., 2012, Criteria for Determining Predatory Open-Access Publishers (2nd edition), available at https://web.archive.org/web/20130603123106/http://scholarlyoa.com/2012/11/30/criteria-for-determining-predatory-open-access-publishers-2nd-edition/ (accessed on August 20, 2017).
Bohannon, J., 2013, Who's Afraid of Peer Review?, Science (04 Oct 2013), 342 (6154), 60-65, doi: 10.1126/science.342.6154.60.
Butler, D., 2013, Investigating journals: The dark side of publishing, Nature, 495, 433–435 (28 March 2013), doi: 10.1038/495433a.
Kuroki, T., 2016, Kenkyu-Fusei (Research Misconduct: translated by Hitoshi Mikada on August 22), Chuko-Shinsho 2373, Chuokoronsha, 302pp., ISBN: 978-4-12-102373-5. (in Japanese)
Silver, A., 2017a, Controversial website that lists ‘predatory’ publishers shuts down, Nature News (18 January 2017), doi: 10.1038/nature.2017.21328.
Silver, A., 2017b, Pay-to-view blacklist of predatory journals set to launch, Nature News (31 May 2017), doi: 10.1038/nature.2017.22090.
Professor Hitoshi Mikada, Graduate School of Engineering, Kyoto University PEPS editor in the solid earth science section |
インターネットを通じた研究成果発表と査読
PEPS固体地球科学セクション編集委員の三ケ田 均(みかだ ひとし)です.
2015年10月にこのBlogに駄文を投稿し,研究室として査読依頼は断らない方針であること,そして毎年二桁となる数の論文査読を担っていることを告白したところ,何と2016年から査読数が激減しました。英訳もついていたため, 海外のEditorの目にも留まり,不憫に思ってくださったのかもしれません.但し,気付けば論文ではなく,国際会議での発表可否を決める査読の要旨数は一会議当たり三桁になりました.十数年前,American Geophysical Unionの秋季大会のSession Convenerを務めた際,小職のセッションに投稿された40〜50の発表申し込みに対し,リジェクトした要旨は2編のみ,採択率約95%でした.しかし投稿数の30%を採択数と決めているSociety of Petroleum Engineersなど,工学系の要旨査読は少々シビアです.論文査読も大変ですが,過半数が不採択となる要旨査読も,細心の注意を要する集中した作業になります.どちらにしてもアカデミアのレベルの維持を担っているのは査読者が支える査読システムであることは間違いなく,今日はシステム全体をもう少し高い場所から眺める話題にしたいと思います.内容は,京都大学工学部の「工学倫理」で筆者が教えているものです.
コロラド大学デンバー校(UCD)のジェフリー・ビール氏が,Predatory Journal(黒木(2016)では,「捕食」ジャーナルあるいは「ハゲタカ」ジャーナルと和訳されている)なる言葉を生み出し,世界各国の数多の雑誌をこのPredatory Journalに分類し始めて7年が経過しました.Butler (2013)には,2008年ごろ急速にその数を増やしたOpen Access Journalからの投稿案内ダイレクト電子メールの文章に数多くの文法ミスを見つけたことが契機になり,ビール氏がこのPredatory Journal問題に気付いたとの記述があります.ビール氏は,Beall (2012)の基準を用い,2011年以降Predatory Journal及びその出版社を公開・更新し続けたリストは,Beall's Listと呼ばれ,研究者の世界では重宝されたことは言うまでもありません.最初の公開時には18社であったPredatory Journal出版社は,2016年12月31日のリストでは923社に達しましたが,今年1月に突然サイトが閉鎖され,ビール氏が分類作業やPredatory Journalに関する発信を突然終了(Silver, 2017a)してから7か月が経過しました.この間,突然Beall's Listが失われたことに対し,突然のサイト閉鎖に対する理由の憶測や不満の声が流れたことはご記憶に新しいかと思います.今年6月からは,Beall's Listとは異なる基準でリストアップされたPredatory Journal及び出版社のリストが,私企業の手により有料で公開(Silver, 2017b)されたのは,経済活動の活発な米国の健在ぶりを再認識させると同時に,アカデミアのPredatory Journalリストへの需要の大きさを物語っている気がします.
2013年に,Science誌上でジョン・ボハノン氏の行なった調査の結果(Bohannon, 2013)が発表されました.ジョン・ボハノン氏は,Wassee Institute of Medicine(ワシー医学研究所;実在しない)の生物学者Ocorrafoo Cobange(オコラフー・コバンジ;偽名)を騙り「地衣類から抽出したある化学物質に制癌作用がある」との内容の論文を作成し304社(このうち29社は既に廃刊状態であったことが判明)のオープン・アクセス・ジャーナル出版社に投稿しました.高校生レベルの化学を学習した人間には容易に判別可能な間違いや欠陥のある図を挿入したにも拘らず,投稿から2か月後には157社の雑誌で受理されたそうです.彼の偽論文の採択率は57%(29社を含めても52%)と過半数になったことにも驚かされましたが,送付先に含まれていたBeall's List中の実に82%の出版社が論文を受理したことでBeall's Listの信憑性が高まったのです.また,偽論文受理にElsevierの出版する雑誌が含まれていたことも物議を醸しました.
Beall's Listの公表や,ボハノンのサイエンス誌上の調査結果から明らかな通り,論文を数多く出版したい研究者と,論文を出版することで投稿料や掲載料収入を得たい出版社の思惑は一致します.論文数を増やしたい研究者が流れ着く先は,最後に印刷を引き受けてくれる出版社になるのかもしれませんが,掲載目的のためだけに成り立つオープン・アクセス・ジャーナル出版社が残念ながら存在します.中には偽のインパクト・ファクターを使っているケースもあるようです.さらに,出版社における論文数増加の意図の発生,出版社の経営者やEditor-in-Chiefが交代などを契機として,投稿論文が受理されやすくなりPredatory化する,あるいはPredatory判定の基準周辺で浮沈する出版社もあるようです.研究成果の質を維持することで成り立っているアカデミアでは,論文数や論文掲載雑誌のインパクト・ファクターが,長い間,暗に評価の基準とされてきました.しかし,どうもこの基準だけでは不十分であり,研究成果発表をする雑誌の科学的評価を時間の関数として捉えていく必要があるという警鐘が鳴らされたのだろうと解釈しています.また,同時にアカデミアの研究レベル維持における査読プロセスの重要性を認識する必要を物語っていると思います.
黒木(2016)では,論文の撤回率という物差しで見た場合,日本が世界第5位の研究不正大国であることが記載されています.第6位以下の国々の論文撤回率は第5位以上と桁が異なり,日本を含む世界第5位までの国々では迅速かつ効果的な対策を講じる必要があります.Predatory Journalの温床となっているインターネットですが,同時に不正の発見に成果の電子的公開という手段が寄与していることは皮肉です.研究不正の少ない日本という信頼を取り戻すためにも,我々研究者が担う査読がいかに大きな役割を果たしているかという観点で責任感と矜持をもち、今後も襟を正して査読をさせていただきたいと思っております.
Beall, J., 2012, Criteria for Determining Predatory Open-Access Publishers (2nd edition), available at https://web.archive.org/web/20130603123106/http://scholarlyoa.com/2012/11/30/criteria-for-determining-predatory-open-access-publishers-2nd-edition/ (accessed on August 20, 2017).
Bohannon, J., 2013, Who's Afraid of Peer Review?, Science (04 Oct 2013), 342 (6154), 60-65, doi: 10.1126/science.342.6154.60.
Butler, D., 2013, Investigating journals: The dark side of publishing, Nature, 495, 433–435 (28 March 2013), doi: 10.1038/495433a.
黒木登志夫, 2016, 研究不正,中公新書2373, 中央公論社, 302pp., ISBN: 978-4-12-102373-5.
Silver, A., 2017a, Controversial website that lists ‘predatory’ publishers shuts down, Nature News (18 January 2017), doi: 10.1038/nature.2017.21328.
Silver, A., 2017b, Pay-to-view blacklist of predatory journals set to launch, Nature News (31 May 2017), doi: 10.1038/nature.2017.22090.
2015年10月にこのBlogに駄文を投稿し,研究室として査読依頼は断らない方針であること,そして毎年二桁となる数の論文査読を担っていることを告白したところ,何と2016年から査読数が激減しました。英訳もついていたため, 海外のEditorの目にも留まり,不憫に思ってくださったのかもしれません.但し,気付けば論文ではなく,国際会議での発表可否を決める査読の要旨数は一会議当たり三桁になりました.十数年前,American Geophysical Unionの秋季大会のSession Convenerを務めた際,小職のセッションに投稿された40〜50の発表申し込みに対し,リジェクトした要旨は2編のみ,採択率約95%でした.しかし投稿数の30%を採択数と決めているSociety of Petroleum Engineersなど,工学系の要旨査読は少々シビアです.論文査読も大変ですが,過半数が不採択となる要旨査読も,細心の注意を要する集中した作業になります.どちらにしてもアカデミアのレベルの維持を担っているのは査読者が支える査読システムであることは間違いなく,今日はシステム全体をもう少し高い場所から眺める話題にしたいと思います.内容は,京都大学工学部の「工学倫理」で筆者が教えているものです.
コロラド大学デンバー校(UCD)のジェフリー・ビール氏が,Predatory Journal(黒木(2016)では,「捕食」ジャーナルあるいは「ハゲタカ」ジャーナルと和訳されている)なる言葉を生み出し,世界各国の数多の雑誌をこのPredatory Journalに分類し始めて7年が経過しました.Butler (2013)には,2008年ごろ急速にその数を増やしたOpen Access Journalからの投稿案内ダイレクト電子メールの文章に数多くの文法ミスを見つけたことが契機になり,ビール氏がこのPredatory Journal問題に気付いたとの記述があります.ビール氏は,Beall (2012)の基準を用い,2011年以降Predatory Journal及びその出版社を公開・更新し続けたリストは,Beall's Listと呼ばれ,研究者の世界では重宝されたことは言うまでもありません.最初の公開時には18社であったPredatory Journal出版社は,2016年12月31日のリストでは923社に達しましたが,今年1月に突然サイトが閉鎖され,ビール氏が分類作業やPredatory Journalに関する発信を突然終了(Silver, 2017a)してから7か月が経過しました.この間,突然Beall's Listが失われたことに対し,突然のサイト閉鎖に対する理由の憶測や不満の声が流れたことはご記憶に新しいかと思います.今年6月からは,Beall's Listとは異なる基準でリストアップされたPredatory Journal及び出版社のリストが,私企業の手により有料で公開(Silver, 2017b)されたのは,経済活動の活発な米国の健在ぶりを再認識させると同時に,アカデミアのPredatory Journalリストへの需要の大きさを物語っている気がします.
2013年に,Science誌上でジョン・ボハノン氏の行なった調査の結果(Bohannon, 2013)が発表されました.ジョン・ボハノン氏は,Wassee Institute of Medicine(ワシー医学研究所;実在しない)の生物学者Ocorrafoo Cobange(オコラフー・コバンジ;偽名)を騙り「地衣類から抽出したある化学物質に制癌作用がある」との内容の論文を作成し304社(このうち29社は既に廃刊状態であったことが判明)のオープン・アクセス・ジャーナル出版社に投稿しました.高校生レベルの化学を学習した人間には容易に判別可能な間違いや欠陥のある図を挿入したにも拘らず,投稿から2か月後には157社の雑誌で受理されたそうです.彼の偽論文の採択率は57%(29社を含めても52%)と過半数になったことにも驚かされましたが,送付先に含まれていたBeall's List中の実に82%の出版社が論文を受理したことでBeall's Listの信憑性が高まったのです.また,偽論文受理にElsevierの出版する雑誌が含まれていたことも物議を醸しました.
Beall's Listの公表や,ボハノンのサイエンス誌上の調査結果から明らかな通り,論文を数多く出版したい研究者と,論文を出版することで投稿料や掲載料収入を得たい出版社の思惑は一致します.論文数を増やしたい研究者が流れ着く先は,最後に印刷を引き受けてくれる出版社になるのかもしれませんが,掲載目的のためだけに成り立つオープン・アクセス・ジャーナル出版社が残念ながら存在します.中には偽のインパクト・ファクターを使っているケースもあるようです.さらに,出版社における論文数増加の意図の発生,出版社の経営者やEditor-in-Chiefが交代などを契機として,投稿論文が受理されやすくなりPredatory化する,あるいはPredatory判定の基準周辺で浮沈する出版社もあるようです.研究成果の質を維持することで成り立っているアカデミアでは,論文数や論文掲載雑誌のインパクト・ファクターが,長い間,暗に評価の基準とされてきました.しかし,どうもこの基準だけでは不十分であり,研究成果発表をする雑誌の科学的評価を時間の関数として捉えていく必要があるという警鐘が鳴らされたのだろうと解釈しています.また,同時にアカデミアの研究レベル維持における査読プロセスの重要性を認識する必要を物語っていると思います.
黒木(2016)では,論文の撤回率という物差しで見た場合,日本が世界第5位の研究不正大国であることが記載されています.第6位以下の国々の論文撤回率は第5位以上と桁が異なり,日本を含む世界第5位までの国々では迅速かつ効果的な対策を講じる必要があります.Predatory Journalの温床となっているインターネットですが,同時に不正の発見に成果の電子的公開という手段が寄与していることは皮肉です.研究不正の少ない日本という信頼を取り戻すためにも,我々研究者が担う査読がいかに大きな役割を果たしているかという観点で責任感と矜持をもち、今後も襟を正して査読をさせていただきたいと思っております.
Beall, J., 2012, Criteria for Determining Predatory Open-Access Publishers (2nd edition), available at https://web.archive.org/web/20130603123106/http://scholarlyoa.com/2012/11/30/criteria-for-determining-predatory-open-access-publishers-2nd-edition/ (accessed on August 20, 2017).
Bohannon, J., 2013, Who's Afraid of Peer Review?, Science (04 Oct 2013), 342 (6154), 60-65, doi: 10.1126/science.342.6154.60.
Butler, D., 2013, Investigating journals: The dark side of publishing, Nature, 495, 433–435 (28 March 2013), doi: 10.1038/495433a.
黒木登志夫, 2016, 研究不正,中公新書2373, 中央公論社, 302pp., ISBN: 978-4-12-102373-5.
Silver, A., 2017a, Controversial website that lists ‘predatory’ publishers shuts down, Nature News (18 January 2017), doi: 10.1038/nature.2017.21328.
Silver, A., 2017b, Pay-to-view blacklist of predatory journals set to launch, Nature News (31 May 2017), doi: 10.1038/nature.2017.22090.
PEPS 固体地球科学セクション編集委員 / 京都大学 大学院 工学研究科 教授 三ケ田 均 |
2017年7月13日木曜日
Visualization of peer review records
Hi, I'm Yuichi Hayakawa from CSIS (Center for Spatial Information Science), The University of Tokyo.
I originally posted a Japanese version of this article, but there were some requests to provide it in English as well.
Thanks for giving me the opportunity to provide this article in English, regarding the visualization of peer review records.
Supposing that many readers of this blog are researchers including students, I would like to ask you one question:
As a researcher, submitting one's paper is an essential task.
On the flip side, reviewing papers of someone else is also necessary for publishing scientific papers.
However, the process of peer review is often performed anonymously, and the action itself may not correctly be evaluated no matter how much a researcher takes the time to read and evaluate someone's manuscript drafts.
Even though we recognize that peer review is an essential process for the scientific community, this may lead to the disadvantageous feelings that reviewing is rather time-consuming, cost ineffective.
To overcome such problems, there is a relatively new service, Publons.
Publons, founded on 2012, provides a web service on recording and publishing peer reviews with necessary confidentiality.
I originally posted a Japanese version of this article, but there were some requests to provide it in English as well.
Thanks for giving me the opportunity to provide this article in English, regarding the visualization of peer review records.
Supposing that many readers of this blog are researchers including students, I would like to ask you one question:
On the flip side, reviewing papers of someone else is also necessary for publishing scientific papers.
However, the process of peer review is often performed anonymously, and the action itself may not correctly be evaluated no matter how much a researcher takes the time to read and evaluate someone's manuscript drafts.
Even though we recognize that peer review is an essential process for the scientific community, this may lead to the disadvantageous feelings that reviewing is rather time-consuming, cost ineffective.
To overcome such problems, there is a relatively new service, Publons.
Publons, founded on 2012, provides a web service on recording and publishing peer reviews with necessary confidentiality.
"A mission to speed up science - Publons"
There are a variety of functions in Publons, including post-publication review. However, for simplicity, here I focus on the normal pre-publication review.
A researcher can register the basic information of a peer review report that she/he performed, including title, journal name, date of review, and review report itself. An option of making it public or private is available for each review following the policy of the journal and the reviewer.
Here is my case.
An overview can be embedded in a web page like this.
In the Profile > Statistics view, the timeline of peer review records is shown (as of July 2017 – just 100!).
For the old review history, I salvaged past e-mails and files to enter the records – somewhat annoying taking a long time... But finally, I can see my total review records like this. It should be better to record the current review in progress every time it is completed.
The number of reviews has increased, where their frequency has also risen.
It had been once every few months, but in recent years, it has become more common to review 3-4 cases per month.
This increase may be either as a result of the personal career development and the general increase in the number of publications.
Impact factor (IF) is often regarded as a standard evaluation index of academic journals, and the number of reviews for journals can be shown like this.
In my case, the mode is around IF = 2 to 3. This could be because I most often review for Geomorphology (Elsevier) as a board member.
Also, the trend can be compared with those in the field of earth and planetary science.
Researchers in this field seem to have many reviews conducted in journals with a bit higher IFs than me.
Another funny stat is the "weekly review punchcard" – you can see which day of the week you often submit your review report.
Though we can read manuscripts at any time, it is necessary to keep the time to summarize review results. The review reports, therefore, tend to be sent more frequently during the latter part of weeks where teaching classes and administrative meetings are relatively few, or on the weekend's evening (the midnight of Sunday – actually Monday).
Without doing anything, peer review is just over when it is returned – this should be, of course, a significant contribution to the scientific community. However, recording reviews would help researchers to motivate their review activities by the visualization of review records.
By the way, we do not have, in fact, a standard lesson or training methods for reviewing so much. Some opportunities like seminars or workshops are being provided recently, but still not so many.
It is necessary to learn by themselves like an on the job training.
It is not competition, of course, so the number or frequency of reviewing is not a big problem.
For the high-quality peer review, we can utilize this kind of system to enhance our motivation and to be evaluated in an appropriate manner.
By the way, Publons has been very recently (last month) acquired by Clarivate Analytics.
Also, for example, a major academic publisher like MDPI is collaborating with Publons on its peer review system.
It seems that the peer review evaluation services of Publons are becoming more popular.
A researcher can register the basic information of a peer review report that she/he performed, including title, journal name, date of review, and review report itself. An option of making it public or private is available for each review following the policy of the journal and the reviewer.
Here is my case.
An overview can be embedded in a web page like this.
In the Profile > Statistics view, the timeline of peer review records is shown (as of July 2017 – just 100!).
Monthly review records |
For the old review history, I salvaged past e-mails and files to enter the records – somewhat annoying taking a long time... But finally, I can see my total review records like this. It should be better to record the current review in progress every time it is completed.
The number of reviews has increased, where their frequency has also risen.
It had been once every few months, but in recent years, it has become more common to review 3-4 cases per month.
This increase may be either as a result of the personal career development and the general increase in the number of publications.
Impact factor (IF) is often regarded as a standard evaluation index of academic journals, and the number of reviews for journals can be shown like this.
Impact factors of journals reviewed for |
In my case, the mode is around IF = 2 to 3. This could be because I most often review for Geomorphology (Elsevier) as a board member.
Also, the trend can be compared with those in the field of earth and planetary science.
Researchers in this field seem to have many reviews conducted in journals with a bit higher IFs than me.
Another funny stat is the "weekly review punchcard" – you can see which day of the week you often submit your review report.
Weekly review punchcard |
Though we can read manuscripts at any time, it is necessary to keep the time to summarize review results. The review reports, therefore, tend to be sent more frequently during the latter part of weeks where teaching classes and administrative meetings are relatively few, or on the weekend's evening (the midnight of Sunday – actually Monday).
Without doing anything, peer review is just over when it is returned – this should be, of course, a significant contribution to the scientific community. However, recording reviews would help researchers to motivate their review activities by the visualization of review records.
By the way, we do not have, in fact, a standard lesson or training methods for reviewing so much. Some opportunities like seminars or workshops are being provided recently, but still not so many.
It is necessary to learn by themselves like an on the job training.
Preparation as a peer reviewer - PEPS Editors Blog (mostly in Japanese, but some references link to webpages in English)Then, even by just looking at the peer review history of others, visualization of review records would help to know how to proceed with reviews.
It is not competition, of course, so the number or frequency of reviewing is not a big problem.
For the high-quality peer review, we can utilize this kind of system to enhance our motivation and to be evaluated in an appropriate manner.
By the way, Publons has been very recently (last month) acquired by Clarivate Analytics.
Also, for example, a major academic publisher like MDPI is collaborating with Publons on its peer review system.
It seems that the peer review evaluation services of Publons are becoming more popular.
2017年7月10日月曜日
「査読」の見える化
東京大学空間情報科学研究センターの早川裕弌と申します。
2017年度より、PEPSの編集委員(地球人間圏科学セクション)として参画させていただくことになりました。
地形学をはじめとして、地理空間情報科学に関する研究に、フィールド調査やGIS空間分析といったアプローチで取り組んでいます。
さて、おそらくこのブログの読者層には、学生の方も含め、研究者の方が多いと思われます。
そこで、まずはそんな研究者のみなさんに、ひとつお尋ねしたいと思います。
研究者として、自身の研究成果をとりまとめ、論文を投稿することは、言わずもがな至上命題のひとつです。
そして、論文が学術誌での出版に至る過程では、必ず、同業者による査読(ピア・レヴュー)を経て、原稿の評価が行われます。
つまり、研究者としては、ただ自分の論文を書けばよいというわけではなく、他者の書いた論文もきちんと評価して、科学的なコミュニティとして研究成果を公表していくことが必要なプロセスになります。
しかしながら、「査読」というプロセスは、一般に匿名で行われることが多く、研究者自身がどれだけ他者の論文を読んで評価をしたとしても、その行為自体が評価されることは、あまりなされていませんでした。
これでは、いくら査読が科学コミュニティにとって重要なプロセスであると認識していても、メリットが少なく、むしろ、時間を割かれるといったデメリットのみが強調され、査読はあまり行いたくない、といった考えに結びついてしまう懸念があります。
そこで、「査読」もただしく評価しよう、という考えのもと開始された、研究者向けサービスがあります。
Publonsは、2012年に開始された比較的新しいサービスで、個々の研究者が行った査読を、差し支えのない範囲で記録・公開し、その適切な評価を行おうといったものになります。
Publonsのシステムでは、個々の研究者が、自身の行った査読の基本的な情報(原稿のタイトルや学術誌名、査読を完了した日付等)を登録します。また、査読結果の内容を記録することも可能です。ただし、学術誌によって、査読内容等については、原則として公開する場合と、非公開とする場合とがあります。これらはPublonsのシステム上で公開・非公開の設定が可能であり、非公開とした場合は公にされることはなく、査読をした、という事実のみが公開されることになります。
説明を手っ取り早くするために、私自身の査読履歴を例として挙げてみます。
下の図は、私が初めて査読をした時から現在(2017年7月時点)までの、すべての査読記録をグラフ化したものになります。(ちょうど累積100回目が終わったところでした)
古い査読履歴については、過去のメールやファイル等を探し出して、少しずつ記録を入力しました(のんびりやって、1年以上かかったかも・・・)。一方、現在進行中の査読については、それが完了する度に、Publonsの自身のアカウントに登録していきます。一手間かかりますが、忘れてしまい、あとから探すよりは良いと思っています。
年を追うごとに、査読履歴も徐々に蓄積し、またその頻度も上昇傾向にあることが一目でわかりますね。
かつては数ヶ月に1度といった頻度でしたが、最近は、月に3~4件の査読をすることも多くなりました。
こうした増加の理由には、個人のキャリアにともなう変化と、論文出版数自体が世界全体で増えていることと、両方があると思われます。
また、どのような学術誌で査読をしているのか、といったことも、グラフで見ることができます。
学術誌の評価基準としてインパクトファクター(IF)がよく使われますが、IF別にみた学術誌の査読数が以下の図になります。
IF=2-3 くらいの学術誌が突出して多いのですが、これはElsevier社のGeomorphologyの委員になっていることもあり、そこでよく査読を行っていることが影響していると思います。
また、地球惑星科学の分野のなかでの位置づけも、同時に表示されています。
同分野の他の方は、もう少し高いIFをもつ雑誌での査読も多く行われているようです。
また、あまり意味はなさそうなのですが、何曜日に査読を返すことが多いか、といったことも見ることができます。
原稿を読むのはいつでもできるとしても、その査読結果をまとめるためには、それなりのまとまった時間が必要です。そのため、授業や会議の比較的少ない週の後半や、週末の夜(日付を跨いだ月曜)に、査読結果を送信していることが多いようです。
「査読」は、何もしなければ、査読しておしまい。もちろんそれでも、科学コミュニティにおける貢献には変わりありません。しかし、表に出ない以上、下手をすると、査読の実績はそのまま闇に葬られてしうかもしれません。
こうした「見えない」査読を、「見える化」するだけでも、ちょっとしたモチヴェーションになりますね。
ところで、実は、「査読」といった作業を、どのように進めたらいいのかといったことは、授業で習うわけでもなく、実際に場数を踏んで、学んでいくしか方法がほとんどありません。
最近は、有志による勉強会やセミナーといったイベントも開かれつつありますが、まだまだ少ないのが現状です。
もちろん競争ではないので、むやみにたくさん、査読を行えばいいということではありません。
あくまで質の高い査読を行うことを目指して、そのモチヴェーションを補ったり、あるいはその行為を正当に評価してもらうことも期待して、こうした査読記録システムを活用してみるのも、一つの方法ではないでしょうか。
なお、ここで紹介したPublonsは、ごく最近、あのClarivate Analytics社に吸収されました。
また、たとえば大手学術出版社であるMDPIは、その査読システムでPublonsとの連携を取っています。
今後、Publonsの査読関連サービスも、より普及していくことが期待されます。
******
差し支えなければ、簡単なアンケートにご協力ください。
2017年度より、PEPSの編集委員(地球人間圏科学セクション)として参画させていただくことになりました。
地形学をはじめとして、地理空間情報科学に関する研究に、フィールド調査やGIS空間分析といったアプローチで取り組んでいます。
さて、おそらくこのブログの読者層には、学生の方も含め、研究者の方が多いと思われます。
そこで、まずはそんな研究者のみなさんに、ひとつお尋ねしたいと思います。
研究者として、自身の研究成果をとりまとめ、論文を投稿することは、言わずもがな至上命題のひとつです。
そして、論文が学術誌での出版に至る過程では、必ず、同業者による査読(ピア・レヴュー)を経て、原稿の評価が行われます。
つまり、研究者としては、ただ自分の論文を書けばよいというわけではなく、他者の書いた論文もきちんと評価して、科学的なコミュニティとして研究成果を公表していくことが必要なプロセスになります。
しかしながら、「査読」というプロセスは、一般に匿名で行われることが多く、研究者自身がどれだけ他者の論文を読んで評価をしたとしても、その行為自体が評価されることは、あまりなされていませんでした。
これでは、いくら査読が科学コミュニティにとって重要なプロセスであると認識していても、メリットが少なく、むしろ、時間を割かれるといったデメリットのみが強調され、査読はあまり行いたくない、といった考えに結びついてしまう懸念があります。
そこで、「査読」もただしく評価しよう、という考えのもと開始された、研究者向けサービスがあります。
Publonsは、2012年に開始された比較的新しいサービスで、個々の研究者が行った査読を、差し支えのない範囲で記録・公開し、その適切な評価を行おうといったものになります。
Publonsの創設者にインタビュー:「科学加速化ミッション」 - Editage Insights
また、査読だけでなく、学術誌の編集にかかわる実績や、自身の出版論文に関する情報、さらにはすでに出版された論文に対する意見(掲載後査読)なども登録することができます。
ここでは簡単のため、通常の掲載前査読だけに焦点を絞りましょう。Publonsのシステムでは、個々の研究者が、自身の行った査読の基本的な情報(原稿のタイトルや学術誌名、査読を完了した日付等)を登録します。また、査読結果の内容を記録することも可能です。ただし、学術誌によって、査読内容等については、原則として公開する場合と、非公開とする場合とがあります。これらはPublonsのシステム上で公開・非公開の設定が可能であり、非公開とした場合は公にされることはなく、査読をした、という事実のみが公開されることになります。
説明を手っ取り早くするために、私自身の査読履歴を例として挙げてみます。
下の図は、私が初めて査読をした時から現在(2017年7月時点)までの、すべての査読記録をグラフ化したものになります。(ちょうど累積100回目が終わったところでした)
右肩上がりの月別査読数
古い査読履歴については、過去のメールやファイル等を探し出して、少しずつ記録を入力しました(のんびりやって、1年以上かかったかも・・・)。一方、現在進行中の査読については、それが完了する度に、Publonsの自身のアカウントに登録していきます。一手間かかりますが、忘れてしまい、あとから探すよりは良いと思っています。
年を追うごとに、査読履歴も徐々に蓄積し、またその頻度も上昇傾向にあることが一目でわかりますね。
かつては数ヶ月に1度といった頻度でしたが、最近は、月に3~4件の査読をすることも多くなりました。
こうした増加の理由には、個人のキャリアにともなう変化と、論文出版数自体が世界全体で増えていることと、両方があると思われます。
また、どのような学術誌で査読をしているのか、といったことも、グラフで見ることができます。
学術誌の評価基準としてインパクトファクター(IF)がよく使われますが、IF別にみた学術誌の査読数が以下の図になります。
査読を行った学術誌のインパクトファクター
IF=2-3 くらいの学術誌が突出して多いのですが、これはElsevier社のGeomorphologyの委員になっていることもあり、そこでよく査読を行っていることが影響していると思います。
また、地球惑星科学の分野のなかでの位置づけも、同時に表示されています。
同分野の他の方は、もう少し高いIFをもつ雑誌での査読も多く行われているようです。
また、あまり意味はなさそうなのですが、何曜日に査読を返すことが多いか、といったことも見ることができます。
曜日ごとの査読返信頻度
原稿を読むのはいつでもできるとしても、その査読結果をまとめるためには、それなりのまとまった時間が必要です。そのため、授業や会議の比較的少ない週の後半や、週末の夜(日付を跨いだ月曜)に、査読結果を送信していることが多いようです。
「査読」は、何もしなければ、査読しておしまい。もちろんそれでも、科学コミュニティにおける貢献には変わりありません。しかし、表に出ない以上、下手をすると、査読の実績はそのまま闇に葬られてしうかもしれません。
こうした「見えない」査読を、「見える化」するだけでも、ちょっとしたモチヴェーションになりますね。
ところで、実は、「査読」といった作業を、どのように進めたらいいのかといったことは、授業で習うわけでもなく、実際に場数を踏んで、学んでいくしか方法がほとんどありません。
最近は、有志による勉強会やセミナーといったイベントも開かれつつありますが、まだまだ少ないのが現状です。
査読者の心構え – PEPS Editors Blogただ、他者の査読履歴を見るだけでも、多少なりとも参考になることはあると思います。
もちろん競争ではないので、むやみにたくさん、査読を行えばいいということではありません。
あくまで質の高い査読を行うことを目指して、そのモチヴェーションを補ったり、あるいはその行為を正当に評価してもらうことも期待して、こうした査読記録システムを活用してみるのも、一つの方法ではないでしょうか。
なお、ここで紹介したPublonsは、ごく最近、あのClarivate Analytics社に吸収されました。
また、たとえば大手学術出版社であるMDPIは、その査読システムでPublonsとの連携を取っています。
今後、Publonsの査読関連サービスも、より普及していくことが期待されます。
******
差し支えなければ、簡単なアンケートにご協力ください。
2017年2月21日火曜日
評価あれこれ
PEPS大気水圏科学セクション編集委員の早坂 忠裕です。
今まで、大気放射と雲、エアロゾルの変動に関する研究を行なってきました。現在の研究テーマは、特に放射収支と気候変動、雲と大気海洋相互作用などです。
さて、研究、研究者、大学に対する評価の嵐に巻き込まれるようになってから随分時間が経ちました。私たちは依然としてその嵐の中にいるようです。現在、私は国立大学で教育研究に従事していますので、その立場から評価について考えてみたいと思います。直近の1、2年を振り返っても、大学の認証評価、国立大学法人としての評価、部局の外部評価、学内での部局評価、部局内での個人評価等がありました。その他に、広い意味では科研費等競争的研究資金の審査、PEPSのような学術雑誌における論文の査読も評価の一環といえるかもしれません。さらに様々な受賞にかかわることもある種の評価と言えます。
目的によって評価の方法は異なります。混乱がみられますので、少し整理して考えてみたいと思います。まず、大学の認証評価は、7年に1回、高等教育機関としての「大学」がその要件を充たしているかどうかという評価です。いわば免許更新のようなものです。教員数は足りているか、適切な授業を行なっているかなど、基本的な要件を充たしているかどうかが問われます。
また、6年ごとの中期目標・中期計画に合わせて行なう国立大学法人の評価は、多額の税金を投入している国立大学をチェックする、いわば社会(納税者)への説明責任を果たすために行なっている意味合いが強いと思われます。中期目標・中期計画は文科省と相談しながら大学ごとに設定されますので、国(文科省)との契約であると言えます。すなわち契約に添った事業の進捗状況をチェックするということになります。
一方、外部評価は、一般に自分達の組織を点検し、改善するために行なわれるものです。評価委員は自分達の研究、教育を良く理解してもらえる見識のある学外の方にお願いします。評価される側が評価する人を選ぶのです。この先生に指摘されたら、それは改善しなければならないと納得できる必要があります。学内における個人評価も部局の外部評価と同じで、評価される側が納得しないと改善につながりません。数学の教員が地球物理学を専門としている部局長に評価されても、自分の研究など理解できない人に評価されたくないと思うのは当然でしょう。個人評価という意味では、研究能力や研究実積が強調されがちですが、大学の場合には教育や人間性も同じくらい重要視する必要があります。教育者としての実積、能力は、それを測るモノサシが難しく、これといった方法が確立されていないというのが現状です。授業のアンケートをとって善し悪しを決めれば良いというような単純なものではありません。さらに教授職の場合には管理運営能力も問われます。
学内での部局評価は、部局間で競わせて学内を活性化するという意味合いが強いと思われますが、部局間で連携協力し大学全体が一致団結して学外と競争しなければならない時代には、一歩間違うと逆効果になる可能性があります。
以上のほか、研究プロジェクトや競争的研究資金の審査は、多くの提案の中から限られた数の研究を選ぶために行なわれます。この種の評価は、採択率が高いと良い部分を評価する一方で、採択率が低い場合にはあら探しをすることになります。また最近では、たとえば科研費の場合、新規応募件数が10万件を超え、的確な審査が行なわれているかどうか心配という声が聞かれます。同様に、学術雑誌の論文の査読も、経験と見識のある研究者は忙しい場合が多いので、なかなか査読をしてくれず、適当な査読者をさがすのに苦労する場合も少なくありません。
このように、評価の目的や内容も様々ですが、研究者は評価される側にも評価する側にもなる機会が多いと思います。それによって多くの時間が費やされることになります。現在は研究も教育も成果をあげることが期待され、入学試験も多様な方法で実施すべきという議論が活発です。しかしながら、時間は有限で1日24時間、1年365(366)日は変りません。個々の評価の目的や意義を良く理解、整理して対応し、有効活用することが重要です。
今まで、大気放射と雲、エアロゾルの変動に関する研究を行なってきました。現在の研究テーマは、特に放射収支と気候変動、雲と大気海洋相互作用などです。
さて、研究、研究者、大学に対する評価の嵐に巻き込まれるようになってから随分時間が経ちました。私たちは依然としてその嵐の中にいるようです。現在、私は国立大学で教育研究に従事していますので、その立場から評価について考えてみたいと思います。直近の1、2年を振り返っても、大学の認証評価、国立大学法人としての評価、部局の外部評価、学内での部局評価、部局内での個人評価等がありました。その他に、広い意味では科研費等競争的研究資金の審査、PEPSのような学術雑誌における論文の査読も評価の一環といえるかもしれません。さらに様々な受賞にかかわることもある種の評価と言えます。
目的によって評価の方法は異なります。混乱がみられますので、少し整理して考えてみたいと思います。まず、大学の認証評価は、7年に1回、高等教育機関としての「大学」がその要件を充たしているかどうかという評価です。いわば免許更新のようなものです。教員数は足りているか、適切な授業を行なっているかなど、基本的な要件を充たしているかどうかが問われます。
また、6年ごとの中期目標・中期計画に合わせて行なう国立大学法人の評価は、多額の税金を投入している国立大学をチェックする、いわば社会(納税者)への説明責任を果たすために行なっている意味合いが強いと思われます。中期目標・中期計画は文科省と相談しながら大学ごとに設定されますので、国(文科省)との契約であると言えます。すなわち契約に添った事業の進捗状況をチェックするということになります。
一方、外部評価は、一般に自分達の組織を点検し、改善するために行なわれるものです。評価委員は自分達の研究、教育を良く理解してもらえる見識のある学外の方にお願いします。評価される側が評価する人を選ぶのです。この先生に指摘されたら、それは改善しなければならないと納得できる必要があります。学内における個人評価も部局の外部評価と同じで、評価される側が納得しないと改善につながりません。数学の教員が地球物理学を専門としている部局長に評価されても、自分の研究など理解できない人に評価されたくないと思うのは当然でしょう。個人評価という意味では、研究能力や研究実積が強調されがちですが、大学の場合には教育や人間性も同じくらい重要視する必要があります。教育者としての実積、能力は、それを測るモノサシが難しく、これといった方法が確立されていないというのが現状です。授業のアンケートをとって善し悪しを決めれば良いというような単純なものではありません。さらに教授職の場合には管理運営能力も問われます。
学内での部局評価は、部局間で競わせて学内を活性化するという意味合いが強いと思われますが、部局間で連携協力し大学全体が一致団結して学外と競争しなければならない時代には、一歩間違うと逆効果になる可能性があります。
以上のほか、研究プロジェクトや競争的研究資金の審査は、多くの提案の中から限られた数の研究を選ぶために行なわれます。この種の評価は、採択率が高いと良い部分を評価する一方で、採択率が低い場合にはあら探しをすることになります。また最近では、たとえば科研費の場合、新規応募件数が10万件を超え、的確な審査が行なわれているかどうか心配という声が聞かれます。同様に、学術雑誌の論文の査読も、経験と見識のある研究者は忙しい場合が多いので、なかなか査読をしてくれず、適当な査読者をさがすのに苦労する場合も少なくありません。
このように、評価の目的や内容も様々ですが、研究者は評価される側にも評価する側にもなる機会が多いと思います。それによって多くの時間が費やされることになります。現在は研究も教育も成果をあげることが期待され、入学試験も多様な方法で実施すべきという議論が活発です。しかしながら、時間は有限で1日24時間、1年365(366)日は変りません。個々の評価の目的や意義を良く理解、整理して対応し、有効活用することが重要です。
PEPS大気水圏科学セクション編集委員/東北大学 大学院理学研究科 早坂 忠裕 |
登録:
投稿 (Atom)