2017年10月4日水曜日

投稿論文の採択率を上げるには

PEPS 固体地球科学セクション編集長の吉岡です。

ご存知の通り、PEPSの推進母体である日本地球惑星科学連合(JpGU)は、今年5月AGUと共催でJpGU-AGU Joint Meetingを開催し、成功裏に終わりました。JpGUでは、学会期間中、口頭発表、ポスター発表のみならず、いろいろな取り組みを行っており、学会参加者向けのセミナーなども行っています。私は今年、「Tips for increasing acceptance rates and impact factors of research manuscripts」というセミナーに参加してきました。本稿を読まれている方の中にもこのセミナーに参加された方がおられることと思いますが、その内容の概略や私が感じたことを中心に書き連ねてみたいと思います。

セミナーは株式会社ELSS 代表取締役のRick Weisburd氏が主導し、英語で1時間ほどで行われました。氏はライフサイエンスの博士の学位を取得しており、長年日本に滞在し、日本人研究者が書いた多くの論文の英語を添削してきた実績を持っています。セミナーの内容は、本稿のタイトルの通り、論文の採択率を上げるにはどうしたらよいか、そのコツに関するものでした。氏によれば、12のコツがあるとのことで、それは、テクニカルなコツと、どうやって筆者の伝えたいことを正確に読者に伝えるかのコツ、の2つに大別されるように思いました。前者では、
 ・適切な雑誌を選択する
 ・適切な査読候補者名を挙げ、不適切な査読候補者は避ける
 ・投稿論文が却下されたら、改訂を行い、同じ分野の別の雑誌に投稿し直す
といったことがコツとして挙げられていましたが、ここでは、後者について、もう少し踏み込んでみてみたいと思います。

その前に、私の研究室の論文投稿に関する現状を書いてみます。研究室にポスドクや学生が多いこともあり、私は、彼らが書いた論文(投稿論文、博士・修士・卒業論文)や国際学会の予稿原稿を加筆修正する機会が少なからずあります。英語表現の問題以前に、書かなくてよいことまで詳しく書いていたり、書くべきことを書いていなかったり、また、前後の文との繋がりや全体の流れが悪いと感じることが少なからずあります。まず、そのような点に関して、大幅な添削を行って、本人に返却し、再度、推敲し直し、修正版を提出してもらってからようやく英語の加筆修正が始まります。この段階では、何を言いたいのか理解できない文が散見されます。文法や構文が正確でなかったり、文が長く、どの単語が主語に対応する述語なのかわからなかったり、適切な専門用語が使われていなかったり、といったことが理解できない主な原因です。このような有様で、論文や予稿原稿が一通り完成するまでに、最低3往復くらいはかかってしまいます。いつも研究室のポスドクや学生には、「独りよがりではなく、読者を常に意識した客観的な文章を書くように。」と伝えているのですが、難しいようで、目に見えるような進歩はなかなか見られません。教育の難しさを感じる今日この頃です。

さて、上述のセミナーの内容の後者のどうやって筆者の伝えたいことを正確に読者に伝えるかのコツに話を戻すと、まさにこのような点が指摘されており、大いに共感できました。まずは、論文を書く前に、論文の構成をしっかりと練り上げることが挙げられていました。この点は、2016年4月のPEPS編集委員の池原氏のPEPSブログ『わかりやすい原稿を書こう』の内容と通ずるものがあります。

また、セミナーでは以下の4つの英文を例に挙げ、筆者が読者に対してDonを良い人間と思わせたいか、それとも、悪い人間と思わせたいか、それはなぜか、といった説明もありました。
 a. Although Don’s a nice guy, he beats his dog.
 b. Although Don beats his dog, he’s a nice guy.
 c. Don’s a nice guy, but he beats his dog.
 d. Don beats his dog, but he’s a nice guy.
これなどは短文でわかりやすい例ですが、いざ論文を執筆するとなったとき、筆者が読者へ自分の意図を英語で正確に伝える文章を書くことの難しさを浮き彫りにしている例と言えるでしょうか。また、関係代名詞やカンマでつながれた長文は、複数の文に分けること、動詞はなるべく主語の直後に置くこと、も文意を正確に伝えるためのコツとして挙げられていました。

また、弱い動詞ではなく、強い動詞を使うことも挙げられており、このことはこれまであまり意識したことがなかったのでためになりました。例えば、
 Measurement of the particle diameters was carried out
 We performed measurements of the particle diameters. 
は弱い動詞の使用例で、
 We measured the particle diameters. 
 The particle diameters were measured.
と書く方が強い動詞を使っているので、好ましいとのことでした。

また、アメリカの小説家でノーベル文学賞受賞者のErnest Hemmingwayの言葉 “The first draft of anything is shit !” を引用し、共著者全員で、繰り返し加筆修正をすることが重要とも力説していました。ちょっと横道に逸れますが、Hemmingwayは多くの名言を残しており、『ヘミングウェイの名言・格言などに掲載されているので、興味のある方はご覧になってみて下さい。このように多くの名言を残した偉人でさえ、上記のように言うのですから、我々はなおさらです。やはり、論文の完成に近道はなく、時間と労力をかけるべし、鍛錬を積んで論文の書き方を磨いていくべし、ということのようです。

その他、『AGU Grammar and Style Guideなどもお勧めの参考文献として挙げられていました。このサイトを見てみたところ、英語を母国語としない我々にとって論文を書く上で役立つ情報が満載で、ご覧頂くと参考になるようなことも少なからずあると思います。

このセミナーに参加してみて、論文執筆の際、これまで全く意識していなかったことが身につき、また、無意識のうちに実践してきたことが体系的に整理し直されました。それとともに、英語でわかりやすい論文を書き、投稿論文の採択率を上げることの難しさを改めて痛感した次第です。ぜひ、読者の皆さんも少し立ち止まって、このようなことにも思いを馳せながら、論文を執筆してみてはいかがでしょうか?
Yoshioka
PEPS 固体地球科学セクション編集長 /
神戸大学 都市安全研究センター/大学院理学研究科 惑星学専攻 吉岡 祥一