2016年4月13日水曜日

わかりやすい原稿を書こう

PEPS大気水圏科学セクション編集委員の池原 研です.

日本第四紀学会から編集委員として出ています.日本第四紀学会の学会誌である「第四紀研究」の編集幹事を4期(8年)程務めた経験があります.専門は海域での堆積作用ですが,最近は日本周辺海域で地震や津波,洪水などで形成された堆積物の認定とそれらから過去の地質災害の発生履歴を検討するような仕事を主にしています.このため,年に何回かは調査航海に出るため,PEPSの編集事務局にはいろいろとご迷惑をおかけしています.海洋関係の研究をしているので,大気水圏科学のセクションに属していますが,PEPSでは固体地球科学,横断的分野,地球人間圏科学,地球生命科学のセクションに投稿された原稿を担当しました,あるいはしていますが,自分の所属するセクションの原稿は担当したことがありません.

さて,当たり前のことをタイトルにしました.では「わかりやすい原稿」とはどんなものでしょうか?私は「起承転結」がしっかりしたもので,不足も余分もないものだと思っています.一つは論文の構成です.「Introduction」での問題意識の提示とそれにかかる現状のまとめ,「Materials」や「Study area」での対象地域や試料のしっかりとした記述,「Methods」での研究・分析方法の記述,「Results」での結果の提示,「Discussions」での結果をもとにした論理的な解釈と問題意識を踏まえた議論,「Conclusions」での考察から導き出される結論の明確な記述.これらの要点は多くの論文執筆法の教科書にも書かれていることであり,日本語原稿でも英語原稿でも基本的に同じです.しかし,これをきっちり守っていくことはなかなか難しいことです.私は論文を書く時にシャープさを常に意識します.自分が示した問題意識に対して,過不足ない,どの結果から,どのような議論を経て,どのような結論を示すか,を頭の中にまず作るわけです.さらにPEPSのような国際誌だったら,問題意識はもちろんローカルなものでなく,地域的あるいは全球的なものであるべきでしょう.数多い論文や投稿原稿の中で時折見かけるのが,「Introduction」で提起した問題に対応した結論が載せられていないものや「Results」の章に「解釈」をちりばめているものです.前者はその論文で著者らが主張したいことを不明瞭にします.後者は,どこまでが自分が出した結果で,どこからが解釈なのかが不明瞭になって論文がシャープでなくなります.また,議論はあちこちに飛ばないように順序よくしてほしいです.論文の中に流れがあると読みやすいですね.さらに,やったことを全部書くのでなく,その中から議論に必要なデータを選択することも大事です.特に若い人の原稿では議論に不要な結果など余分な情報が入っている場合が多いです.不要なデータや記述は論文の論点を不明確にします.一方で,もちろん必要なデータはすべて載せられていることは必須です.どうしてそれがそう解釈されるのか,後続の研究者がその結果を使えるようにしっかりとした根拠を示しましょう.もう一つ,思い込みの議論はやめましょう.自分では常識であっても,それが他の人の常識であるとは限りません.図表もわかりやすいものであってほしいですね.不要な空白は削って,数字や文字も大きめにしてほしいです.

以上はまた,私が査読者や編集委員として投稿原稿をみる時の基本でもあります.もっとも,えらそうにこう書いていても,自分の原稿で上記のようなことを査読者から指摘され,修正を求められたこともありました.ここでは,自戒の意味も込めて,そしてこれから論文を書いていってほしい若手研究者に向けて,当たり前のことを書かせてもらいました.常にシャープさを意識して,「わかりやすい原稿」を作っていきたいものです.

以下は,手元にある「日本語の」論文の書き方の本の一例です.
倉茂好匡(2009)環境科学を学ぶ学生のための科学的和文作文法入門.滋賀県立大学環境ブックレット,5,95p.,サンライズ出版.
日本語論文の書き方の入門書で,「日本語の書き方」という最も基礎から入っていますが,英語論文に通ずるところも多数あります.若い人には是非読んでほしい本です.

見延庄士郎(2008)理系のためのレポート・論文完全ナビ.講談社.
実験レポート・卒論の書き方の本ですが,論文の構成や図表の書き方,わかりやすい文章の書き方などは参考になります.

酒井聡樹(2015)これから論文を書く若者のために 究極の大改訂版.共立出版.
私が持っているのはこの前のバージョンである「大改訂増補版」ですが,上記2冊のさらに先,投稿から査読対応まで書かれています.

ピストンコアラの揚収風景.錘の先のパイプが海底に突き刺さって,海底堆積物を抜き取ってきます.

PEPS大気水圏科学セクション編集委員 / 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 池原 研