2015年10月2日金曜日

人間のいない地球

PEPS地球人間圏科学セクション編集長の松本 淳です.

今年の中秋の名月は天気が良かった地域が多く,お月見を楽しまれた人も多かったと思います.日本には古来,「月にウサギ」の伝説がありました.また地球にもっとも近い環境にある惑星に「火星人」を想像してきました.これらの話が宇宙惑星科学へ興味をもつきっかけになった人もいるのではないでしょうか? 生命が誕生しうる環境を持った星の存在も語られているものの,生命が確実に宿っている星は,今のところ地球のみです.その生命誕生のドラマの最終章に登場した人類は,こうして書いている文章を瞬時に世界中に届けることも可能にし,自然界に元来存在しなかったさまざまな物質を考案,すさまじい勢いで,他の動植物の生息域を奪ってきました.今世紀末には100億人に達するといわれる地球の人口爆発はしかし,わずか200年ほど前から加速的に生じてきた,地球の歴史からみれば,ほんの一瞬の出来事にしかすぎません.

この人類が,地球の環境を大きく改変していることが,前世紀の後半から強く意識されるようになりました.「地球環境問題」の深刻化です.「地球温暖化」は,私の学生時代から指摘されていました.しかし,当時寒冷化していた地球の気温や氷河の前進傾向などから,温暖化に懐疑的な研究者が多く,18世紀以前の「小氷期」が再来することが真剣に恐れられていました.1980年代以降の地球気温の急激な上昇により,事態は激変し,今や数十年後の気候も予測できるようになりました.予測の正しさは私の次の世代で実証されることでしょう.

皮肉にも1960~70年代頃の寒冷化は,人間活動による「大気汚染」の結果と考えられています.私が学んでいる「気候学」の世界では,つい最近まで大気汚染は,局地的な気候学の問題でした.広域的な輸送も知られていましたが,東京湾から中部山岳域への輸送に,局地循環の大切さを知ったくらいでした.局地的な大気汚染は,さまざまな公害問題を生み,多くの紆余曲折を持ちながら,基本的には汚染の規制と,それを実現可能にする防止技術の確立により,ある程度の改善は実現しました.日本でのこの教訓はしかし,残念ながらその後の発展途上国ではあまり活かされることなく各地で深刻化し,さらには全球的な気候にも影響を与えています.

科学的知見が世界を変えたもっとも顕著な事例は,オゾン層の破壊防止のためのフロンの使用禁止でしょう.残念ながら地球温暖化も,大気汚染も,議論はされていても,フロンほど強い政策決定には至っていません.しかし,科学はより良い地球を実現するための重要な指針を与えます.人間活動を抜きにした地球は,もはや少なくとも地球の表層部には存在しえません.我々は,未来のより良い地球環境をいかにして実現していくことができるのか? そのような判断のよりどころになるような研究が,PEPSの地球人間圏科学の論文として,次々と載るような時代を夢見ています.人間のいない地球はありません.どうか人間臭い論文をPEPSにどんどん投稿してください.


PEPS 地球人間圏科学セクション編集長 / 首都大学東京 大学院 都市環境科学研究科 松本

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